第十一章 捨てられた者
財政は塩で
私はその後、細長い異空間倉庫を作り、ドアを両端にイメージしました。
一つはイシュタルの居室、もう一つは亡霊の館の、私の居室に繋げたのです。
リリータウンの前室を通りますが、私と所持者以外はドアとドアがくっついた状態にしました。
ついでなので、マリーさんとニコルさんも、通れるようにしておきましょう。
その後、小雪さんとビクトリアさんに、出来栄えを確認してもらい、アリスさんを呼んで、ここの管理も任せました。
アポロさんとトール隊長は、なにもいいませんでしたが、薄々思っていたであろう私の正体に、確信を持ったでしょうね。
この二人は安心できると、断言できますので構いませんが。
エラム歴の一月が経ち、アポロさんを執政に任命しました。
計画どおり治安権を返上させて、代わりに独占貿易権を手にいれた人たちは、お金儲けに奔走しています。
この貿易独占権とは、特定の地域との貿易です。
彼らは金儲けの手段を、別の形で手に入れたので、嬉々として邁進しています。
勿論、税金はきちっと取ります、払えなければ剥奪しますからね。
また審議会を招集しましたが、彼らはまだ集まるだけです。
当分アポロさんの双肩に、この国は懸かっているようです。
有能な人がいて良かった、自らの能力がなければ、このような有能な人を登用する、治世の鉄則です。
まあ監視が必要ですかね。
私はジャバ王国の首都を、お忍びで散策しています。
アポロさんが素顔を晒してはいけないと、物凄い顔で詰め寄るので、フードを被った怪しげな格好です。
しかも護衛として、トール隊長がくっついてはなれません。
トール隊長はこの町では有名人、顔を知られているので、だれも近づいては来ません。
これでは、お忍び視察の意味がありません。
「トール隊長、もう少し離れませんか?」と言うと、
「イシュタル様になにかあれば、取り返しがつきません」と、相手にしてくれません。
この人は、イシュタル女王の臣下であり、黒の巫女の配下ではないので、サリーさんのように、気をきかしてはくれません。
頼もしいといえば、頼もしいのですが……
イシュタル突撃隊の方々には、当面、治安を担当してもらっています。
治安権返上で、だいぶ治安は良くなってきましたが、まだアムリア帝国の段階にもなっていません。
国防は海峡があるので、ある程度大丈夫ですが、このジャバ王国は海軍を創設する必要があるでしょう、貿易を守るためにもね。
何はともあれ、税収の安定が急務ですが、私の苦手なことです。
町はひと頃より活気が出ていますが、奴隷貿易がまだ盛んです。
当面の財政が必要なので、アポロさんもまだ手をつけないそうです。
おいおい人材派遣などに、転換してもらいましょう、急な改革は、社会不安を誘発しますからね。
トール隊長を連れて、私は町の視察を続けています。
人々の顔が、少し明るくなっているのが救いです。
商店には商品があり、どうやら人々の購買力も多少向上したと見受けられます。
「トールさん、この国にだけある物って、知っていますか?」
「詳しくは知りませんが、小さな塩の湖があるだけです」
塩の湖?
今、塩といいましたね。
そういえばこの世界は、大陸国家が主要でしたね。
私は即座にアポロさんと、塩について話をしました。
「アポロさん、つまり塩は、大陸では採れないのですか?」
塩の鉱山はあるにはあるが、大陸を潤すほどの量は算出していない、生産量は限られてくるそうです。
つまり塩は、大変高価な物らしいのです。
ジャバにある塩の湖というのは、汽水湖でウミサソリキングの産卵場でもあり、とても製塩などは難しいのですが……
この世界の動力は人馬ですね、風車で海水をくみ上げて、安全な場所で大規模に製塩すればどうでしょうか、と言ってみました。
アポロさんが、
「私には風車というものが、どういうものか分かりませんし、海水より大規模に、塩を作る方法が分かりません」
「もし安全に海水をくみ上げることができ、製塩方法が分かり、塩が大量に低価格で増産できれば、かなり財政が潤うでしょう、なんせ商人は一杯いますから」
私は風車の簡単な図面を書き、アポロさんに渡しました。
流下式塩田製塩法のノウハウを、手書きしたものと一緒にね……実現できればいいのに……
後日、アポロさんの報告書を読んで見ますと、実現可能とあり、実験して見ると書かれていました。
上手くいけば国家の事業として、いま国内にいる奴隷を買い上げて投入するそうです。
奴隷貿易より、塩の貿易のほうが高い利益なので、おいおい奴隷貿易は廃れていくでしょう、と、結論してありました。
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