イシュタルの名の下に


 ここはジャバ王国です。

 私たち三人は、くすんだグレーの衣服を着て、草原に突如いでたちました。

 今回は堂々と異能を発揮しての見聞です。


 覚悟を決めるとワクワクしてきます。

 眠っていた男の血でしょうか?

 電撃杖が頼もしく思えます。


 まして私の側には、ビクトリアさんと小雪さんが、私の監視をかねて控えています。

 何かのテレビの番組みたいですね、印籠を準備しましょうか。


 そもそも私はこの国に対して、見聞もしない時点で、偏見をもっています。


 たとえここが、古代社会といえども好きにはなれません。

 ましてこの国の治安は最悪、盗賊がのさばっていると聞いてはなおさらです。

 どうも小雪さんのレクチャーで、刷り込まれたようです。

 単純ですね。


 胸の中でイシュタルの名が響きました。

 私のもう一つの名前、愛と戦いの女神、娼婦の守護者、ジャバ王国ではふさわしい名です。

 死の女王『イシュタル』……

 何かがはじけました。


「姉ちゃんたち、可愛がってやるぜ」

 声のするほうを見ると、四人の男たちがいます。

 女性を攫って来たのか、殴られて顔を腫らした、ほとんど全裸の状態の人を連れています。


 私は静かに怒っています。

 激怒ではなく、身体が白くなるほどの怒りです。


 ビクトリアさんが剣を抜きましたが、私はビクトリアさんを制止して、

「汝が私を可愛がってくれるのか、それは頼もしい」

「歓迎しよう、私のしもべ、死を司るものよ、出でよ」


 地の底から、湧きあがるように死神が浮かび上がり、死の匂いを漂わせています。

「気安く私に声をかける愚か者、簡単に殺しはせぬぞ、存分に楽しませてくれ」


 その男は震えあがっています。

 さてどうしましょうか、考えるのも面倒です。


「剣を抜かなければ死ぬぞ、剣を抜いても死ぬがな、存分にあがいてみせよ、私を楽しませよ」


「お許しください、お助けください!」

 情けない声で懇願する男たち……


「お前は、そうして懇願したものを助けたか?」

「そうではあるまい」

「いままで、私に出会わなかった幸運もここまで、腐りながら死んでいけ!」


 死神が一人の男の首に、鎌をかけて手前にひきます。

 鎌が身体をすり抜けましたが、その途端、男の身体が腐食を始めます。

 濃硫酸で溶けていくのです、私がそのようにイメージしたので確かです。


 男は絶叫して悶え苦しみ、溶けていきます。

 声が途絶えました。


「次はだれが遊んでくれるのか?」

 震えあがっている男たちを睨みながら、声をかけました。


 彼らは逃げられません、先程、足を折っときましたから。


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