舞踏会のヒロイン


「さて、お父様もそろそろ、お出ましになりませんか?」

「女性を隠れて見ているのは、紳士としては褒められないでしょう?」

「このテーブルには、だれも来ないので歓迎しますわ」

 と言うと、罰の悪そうな顔をして、柱の陰から出て来ました。


「親子そろって悪ガキですね」

 と言うと、騎士さんは大きな声で笑いました。

 それを聞きつけて、サリーさんとダフネさんが私の両横に座ります。

 サリーさんに至っては、露骨に警戒しています。

 でも騎士さんは意に介しません。


「良いお話を聞かせていただき、ありがとうございます、心の隅といわず、肝に銘じておきます」

「ところで私にも、息子が頂いたお菓子を頂けませんか、良い記念になりますので」

 私が少し笑ったので、場の雰囲気が和み、皆でお菓子を頂きました。


 騎士さんが云うには、今日はウィルヘルム君の誕生日だそうで、いつも構っておられないので、今日ぐらいは何とか構おうと、連れてきたそうです。


「親馬鹿で、甘やかしすぎたとよく思っています」

と云いました。

 騎士さんは、私たちに頭を下げ、お礼を述べて、ウィルヘルム君を連れて行きました。


 私たちはというと、記念舞踏会を楽しんでいました。


 最後まで私の周りにはだれ一人寄ってこず、一人お食事に専念しました。

 あれからも二人は、疲れると私のテーブルへ戻ってきて、一呼吸してまた踊りにいきました。

 二人とも殿方やご婦人方と、楽しそうに踊っていたようです。


 最後のほうは、サリーさんが私を引っ張り出して、踊りましょうといいますので、

「足をふんでも知りませんよ」

 といいましたが、やはり踊りのイメージが湧いて、違和感なく踊れました。

 そのあと今度はダフネさんが、お願いしますと云いますので、そのまま踊りました。


 私たちが踊っていますと、だれも踊りません、寂しい限りです。

 ただ一人、ウィルヘルム君のお父様が、「踊っていただきたい」と云って来ました。


「お嫁さんにはなりませんよ」と言いましたら、笑いながら、「手厳しい、分かりました」と云いましたので踊りました。


 初めて男の人と踊りましたら、少しドキドキした自分に苦笑しました。


 あまりに、ご婦人方の視線がいたいので、少々へそ曲がりな私は、ぴったりとくっついて、完璧に踊って差し上げます。


 サリーさん大丈夫ですよ。

 なんせお相手は、筋金入りの女好き、しかも子持ちの殿方に、私が落ちるわけはないじゃないですか。


 最後の最後に、舞踏会の主催者という方が来て、

「ヴィーナス様、サリー様がおっしゃるには、ヴィーナス様は大変歌がお上手だそうで、最後の記念に、ヴィーナス様の歌をお聞かせ願えませんか?」


 サリーさん余計なことを、と思いましたが、もう逃げられない雰囲気です。


「お耳が穢れても知りませんよ、ご期待に沿わなくてもいいですか?」

と聞きますと、いつの間にかこの場に居る、ウィルヘルム君のお父様が、

「誕生日の息子のために、ぜひお願いできませんか?」と云います。

 ウィルヘルム君は、もう船を漕いでいるじゃないですか!


 舞踏会の主催者が、是非にとおっしゃるので、しかたありません、歌うことにしました。

「お誕生日といわれれば、いたしかたありませんね」

「ならば私は異国の歌を知っていますので、それを歌いましょう」


 この世界で二回目となるアメージンググレースです。

 ダフネさんが、

「巫女様は歌がお上手なのですね、サリーさんが云うわけです」


 私はダフネさんに、

「小細工しましたね、しかしお顔が広いですね」

 と言いますと、ダフネさんが、「あの方はどうでしたか?」

 と聞くので、

「軍神と呼べるでしょう、この場においても隙を見せないのには、感嘆するしかありません。でも女性がお好きのようですね」


 結局、私は王位継承トーナメントを見ませんでした。

 トーナメントは、今の至高王がご自身で参加して、圧倒的力量を示して再選されました。

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