年上の女性
ウィルヘルム君と、テーブルに隣り合って座って、
「ウィルヘルム様、どのようにエスコートしてくださるのですか?」
「……」
ウィルヘルム君は固まってしまいました。
「幼いといえども、ウィルヘルム様は男性、どのような場合でも迷いは禁物ですよ」
「迷いが許されるのは、その決断に多くの人生がかかる場合だけです」
「……」
私はその顔を見ていると、おかしくなって、
「ところでデザートが食べたいのですが、どれがおいしいのでしょう、私に教えてくださいませんか?」
急にウィルヘルム君は元気が出てきます。
これが美味しい、どれが美味しい、と説明してくれます。
結局パンケーキを、ボーイさんにもって来てもらいました。
パンケーキを二人で食べて、蜂蜜を口に一杯つけたウィルヘルム君の口を拭って上げて、本当に幼い弟の様な気がしてきました。
姉さんもこんな思いだったのでしょう。
「お姉さんの名前は?」と聞かれたので、
「これは失礼しました、私はヴィーナスと申します」
「ヴィーナスさんは幾つ?」
と聞かれるので「十八ですよ」と答え、
「女性に歳は聞くかないものですよ」
「僕は、この国の」と云いかけるので、私はウィルヘルム君の口に人差し指をあてました。
「むやみにいうものではありません」
「お父様ならいざ知らず、ウィルヘルム様が勝ち取ったものではないでしょう」
「それをいえばお友達はできなくなりますよ」
「お友達と思っていた関係が、臣下の関係になるのは悲しいでしょう?」
「人自身は、生まれた時はなんら違いはありません、上下を作るのは人なのです」
「人によって作られた上下関係は、責任が発生します、そしてそれは理不尽なものです」
「上にあれば、その責任は大きくなります、泣くも笑うも許されなくなります、その時、上下でないお友達が必要なのです」
「大事なお友達が見つかったら、その人の立場で考え、その人と同じものを食べて見て、同じ屋根の下で寝て見ることです」
「そうして初めて、上下のないお友達ができるのです」
「ウィルヘルム様、どうぞ、この私の言葉を心の隅に置き留めてください」
「私はトーナメントが終われば、この国を去ります」
「利害関係のない私だから、このようなことを言えるのです」
「ウィルヘルム様に、このようなことを云う方は、あまりおられないのではありませんか?」
「もし耳に痛い言葉を云う方がいれば、その言葉をよく聞き、よく考えてくださいね、きっとその中には、役に立つ言葉があるでしょう」
「ウィルヘルム様、ごめんなさいね、まだ甘えたいお年頃でしたね」
「そうそう、このお菓子を食べて見ませんか、美味しいですよ」
私はサリーさんとダフネさんのために、密かに用意しておいた、袋に入ったチョコレートを取り出しました。
「これは私も、私のお友達も、大好きなお菓子なんですよ、特別にウィルヘルム様には差し上げましょう、一緒に食べましょうね」
と、ウィルヘルム君のために、精一杯の笑顔を作りました。
ウィルヘルム君はお菓子を口に含んで、リスみたいになっていましたが、食べた後、少し真面目な顔をして、
「僕、ヴィーナスさんのお話は、半分ぐらいしか分からなかったけど、友達が大事なことはわかった、がんばってみる」
「ウィルヘルム様、ご立派ですよ、この調子ならきっと可愛い彼女もできますよ」
と言ってあげると、真っ赤になっていました。
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