和解


 スイートルームはメゾネットになっていました。

 サリーさん姉妹には、一つの部屋で、長かった年月を埋めてもらいましょう。


 私はサリーさんへ、

「後のことは何とでもなりますし、何とでもします、今夜は姉妹でゆっくりと過ごしてください」

と言い、マリーさんへは、

「今後のことは心配無用、まかせなさい」

と胸を叩いておきました。


 二人を追い立てて、私はダフネさんといます。

 ダフネさん、今夜は色気なしですよ。


「ダフネさん、いい人ですね、私は人の不幸に、怒ったり泣いたりする人は好きです」

「ダフネさんは私より年上ですが、見直しました」


「巫女様も泥を被りましたね」

「でも女である私が、女を抱いているのは真実ですから、泥を被るというのはあてはまりません」


 私は言葉を続けました。

「ダフネさんは薄々知っているのでしょう?黒の巫女は何をするのか、何を決めるのかを」


 ダフネさんは、

「私はまだですが、鍵の所持者のつもりです」

「鍵の所持者は、黒の巫女様に従うのみと心得ています。どのようなことでもです」


「ありがとうございます、白状しますと、少し黒の巫女の生活に疲れています」

「私が男だったら、この状態も別の意味になるのですが、ダフネさんに言うのもなんですが、私は自分が嫌になるときもあります」


「女性を抱くという行為に、自分がのめりこむのも、勿論こんな思いは、失礼なことは重々承知しています」


「ダフネさんの所持者になるということは、私はダフネさんとも、そのような関係になるということで、私がこんな気持ちでいるのに、抱かれるダフネさんはいいのですか?」


「巫女様、欲望が悪とは限りません、正直に言いますと、巫女様はこの世界の人ではありません、しかしこの世界におられます」


「生き物が生きるためには、その場所の法則に従わなければなりません。つまり巫女様は元の巫女様の世界でもなく、このエラムの世界でもない、黒の巫女の世界の法則に従うことになります」

「この私も、黒の巫女の世界の法則に、拘束される身になるのです」


 ダフネさんにそう云われると、いままでの悩みが少し解消されるような気がしてきます。

「ダフネさん、私は救われた気がします、本当にありがとうございます」


 次の日の朝、サリーさんがやってきて、

「妹から経緯は聞きました、ダフネさん、ありがとう、お嬢様、ご迷惑をかけました」と云います。


「サリーさん、そんな他人行儀な挨拶はいりません」

「ダフネさんにも云われたのですが、もう私たちは時を共有する仲間、当然のことです」


「しかし、あの時、ダフネさんがマリーさんを見つけて、怒りださなければ、今回のことは起こりませんでした。もし感謝するなら、どうぞダフネさんにお願いします」


 サリーさんはダフネさんの手を取って、

「ダフネさん、今回の妹のことでは、どのように感謝しても足りません、本当に本当にありがとうございました」


 サリーさんの目が、心なしか潤んでいます。


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