マリー


 サリーさんが、

「何をされていたのですか、ダフネさんも迷惑を……マリー!」


「マリー、貴女、マリーでしょ、私よ、サリーよ!」

 サリーさんは娘さんをかき抱いて、「マリー、姉さんよ」と云っています。

 涙がぽたぽたと落ちています。


 娘さんは一瞬、訳が分からなかったみたいですが、急に顔をくしゃくしゃにして、

「お姉さま、サリーお姉さま、会いたかった……」と、後は声になりません。


 私とダフネさんは、二人の涙が落ち着くまで待ちました。

 ダフネさんはもらい泣きしています、私も涙腺がゆるんでなりません。


 さあダフネさん、二人を今夜、泊まる所へ案内してください。

 サリーさん行きましょう、マリーさんも一緒に。


 宿は満室でしたが、スイートルームが空いていました。

 そうですね、せっかくのサリーさん姉妹のためですもの、先程の金貨とともに、私のお財布で何とかいたしましょう。


 お金の力はすごいものです。ボロボロのマリーさんを見ても何もいいません。

 といっても何もいわせはしませんけど。

 私たちは豪華な部屋で、マリーさんの身の上を聞くことになりました。


 マリーさんが口を開きます。

「サリーお姉さまが売られたあと、そのお金で何とか食べていましたが、お父様はとても気にしていました、お母様は毎日泣いていました」


「お姉さまのお金も底をつきかけたころ、私たちはこっそり、サリーお姉さまを一目見に行きました、お姉さまが見受けされた後のことです」


「私はお姉さまの姿を見たときの、衝撃を忘れません、そのあとお父様もお母様も、だんだん食事をとらなくなりました」


「どのようにいっても、二人はサリーお姉さまに申し訳ない、これは娘を売った天罰だといって、私には、サリーのためにも幸せになってくれ、と云い残してとうとう死んでしまいました」


「借金が残っている私なぞ、だれも相続などしません、私は返済のために貴族の下働きなどして、寝る間も惜しんで働きましたが、生きていくのが精一杯、お父様のいいつけを守れなくなって、とうとう借金のかたに売りにだされました」


「私を殴っていたのは女衒で、あの後、私は売春宿へ、奴隷として売られることになっていました」

「なので、まだ私の体には手をつけませんでしたが、私が嫌がるので、あそこで殴られていたのです」


 サリーさんがまた泣き出しました。

 私もダフネさんも言葉がありません。


 マリーさんが私に向かって、

「お嬢様はお姉さまのご主人様と思います、私を購入した理由は聞こえました、どうぞ私をお好きにしてください、でもお姉さまには、優しくしてくださいませんか」


「マリーさん、あれはあのときの方便です、私はそんな酷い女ではありません」

「サリーさんは私のレディーズ・メイドをしてもらっていますが、私の大事なお友達です。お友達の妹さんは私にとって大事な妹です」

 私は売買証明書を取り出して、目の前で破り捨てました。


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