スチームサウナに見える世界
「ビクトリアさん、宿舎に帰る前にお風呂に行きませんか、ちょっと血の匂いがします、せっかくの美貌が台無しですよ!」
私もピピンさん譲りの、それとないお世辞を使うと、ビクトリアさん、少し赤くなりました。
ビクトリアさん、可愛い!
「おまたせしました、ついでですから、私がもってきました」
ちょっとピピンさん、その巨大なバケツみたいなものは何ですか!
「一杯とのことですので、ビクトリア殿を観察するに、このくらいが必要かと」
私は盛大にため息をついたのですが、隣で目を輝かしている、この獣をどうしましょうか?
あぁ、さっきの可愛い!は撤回です。
惚れ惚れするような赤毛の美女剣士の、それこそ見事な一気飲み。
男性陣はもとより、女性陣からもラブリー光線を浴びながら、ビクトリアさんは喫茶店を後にしました。
「ピピン様、どこかに入浴できる施設はありませんか?」
ピピンさんは盛大に勘違いしているようです、私たちは女性ですよ!!
「ヴィーナス殿は、そっちの気があるのかと思いましたよ!」
口を滑らせましたね。
すこし癪に障ったので、私は思い切って言うことにしました。
「そうですね、私と一緒にどうですか?レディピピン」
ピピンさん、目が点になっていますよ、図星だったみたいですね。
「どこで気がつかれたのですか?」
「さきほど二人で、お茶を飲んでいるときです」
「ふとある人とピピン様が重なって、それでよく見ると、のど仏が見えませんでしたので、もしやと思っていました」
「そして今の言葉、『そっちの気』と云われたので確定しました」
「そうですか、ヴィーナス殿には隠せないですね」
「ですからピピン様、女三人、裸の付き合いといきませんか?」
「何か、危ない会話にも聞こえますが」
ビクトリアさんが、
「わたしは危なくてもいいのだがな」
ビクトリアさん、こんなときも茶化すのですか。
私たちはピピンさんの案内で、公衆浴場へ行くことになりました。
古代ローマにもあったのだから、あっても不思議ではないのでしょう。
ピピンさんが、このままでは女風呂へ入れないので、着替えて来ると云って、近くの衛士詰所へ入ると、入り口で衛士が敬礼をしています。
ビクトリアさんが、やはり警備関係の人間かと呟いていました。
しばし待っていると詰所から、妙齢の綺麗な婦人が出て来ました。
多分あの方がピピンさんだろうとは思いましたが、それでもかなり驚いて呟いた一言を、ビクトリアさんにしっかり聞かれました。
「この格差はやはりサリーさんと似ている、女は怖いものだ、サリーさんは恐ろしい」
この後しばらく、ビクトリアさんにからかわれることになりました。
「さあ皆様、行きましょう」
ピピンさん、生き生きしていませんか、自分で蒔いたことながら嫌な予感がします。
ピピンさんとビクトリアさんに両腕を捉まれて、刑場へ引かれていきました。
ローマ風呂で、私は意を決し服を脱いだのです、ビクトリアさんが口笛を吹きます。
「ビクトリアさん、はしたないですよ」
「ビクトリアさんもサッサと脱いでください」
ピピンさんを見ると、ピピンさんも私を見ています。
「ピピン様、恥ずかしいから、見ないでください」
私の周りは野獣ばかりか!
この国の風呂はスチームサウナらしい。
これだけの公衆浴場を維持するのは、どうするのだろう?
おのぼりさんよろしく、店員さんに聞くと、奴隷に水を汲ませ、薪をくべて蒸気を熾しているとのこと。
この文化生活を維持するのは、奴隷制度なのだと再認識してしまいました。
スチームにゆられて、私の憂鬱な顔は隠されましたが、この嫌な感覚は隠せるのか?
この世界に根付いている奴隷制度は、人が進化する上での必然なのか?
簡単ではない数学の解を求めるように、私の思考は深く沈みました。
翌日、短い滞在を終わり、ピピンさんと別れを惜しんだ後、我々はジャイアールを後にしました。
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