ミスターピピン
私はピピンさんと、まったりとお茶をしています。
生まれて初めての、デートと呼ぶべきものをしているので、気恥ずかしさが勝ってきました。
ピピンさんは平然としてお茶を飲んでいます。
突然、ピピンさんは、「ヴィーナス殿はこの国をどうおもわれますか?」と聞いてきました。
「ダフネ様の侍女としては、お答えできません」と答えると、
「ヴィーナス殿、個人のお考えで結構ですので」と迫ってきます。
どうやらピピンさんは、ダフネさんの書簡を全部読んでいるようです。
でも、王と議会あての親書を読めるなんて、この人は何者だろう?
でも悪い人ではなさそうだし困った……
ため息をつきながら、私は答えることにしました。
「私個人の考えであることが前提ですが」、と前置きして、
「ホラズム王国は繁栄しているように見えますが、私には足元に奈落の落とし穴が、開いているように思えます」
「多分官僚機構は、硬直化しているのではありませんか?」
「ここの硬直化が起こると、組織自身が保身に走り、国家より組織を優先する弊害が発生します」
「議会制はおおいに褒めるべきですが、モラルがなければ、衆愚政治と呼ぶべきものになります。このような状態では、うっかりすると軍部あたりのクーデターが発生し、最悪内乱になりかねません」
「さきほどの衛士の方の反応と、ピピンさんの挙動を観察するに、ピピンさんは治安関係の、それもかなり上層部の方とお見受けします」
「しかも軍部にも多少影響力がおありのようです、だから言葉を浪費する必要はないでしょう、一言でいうなら『危うい』ということです、これ以上はお国のことなのでご勘弁ください」
私は一息ついて、
「さて、私たちをどうしますか?」
ピピンさんは肩をすくめましたが、
「お忍びの方に何をするというのですか?」
「ヴィーナス殿が私の部下だったら、いや上司でもいい、ダフネ様の侍女をおやめになったら、この国に来て欲しいものです」
カマはかけてみるものですね。
どうやらピピンさんは、私の本当の姿は知らないらしい。
こうなると、ほとほとダフネさんの深慮遠望に舌を巻きました。
ピピンさんは、この後だんまりを決め込んで、私はティーカップを見つめています。
気まずい沈黙ってこのことだろうか?
女ならこの場合どうするのだろう?
サリーさんのレクチャーをもっと受けとけばよかった、まるで別れ話の恋人みたいに見えるのでは。
でも、サリーさんのレクチャーって恐ろしいし、私にはとてもできないし……
サリーさんのとんでもない色気と、いつものお淑やかな姿のギャップ……
とても女性にはなりきれない、などと取り留めなく脱線していく私でしたが、ふとピピンさんとサリーさんが重なって見えました。
「ヴィーナス」
呼ばれて見上げると、ビクトリアさんが立っていました、少し興奮気味で、アドレナリンが滲み出ています。
「ご苦労様です、お礼は存分に云えましたか?」
ビクトリアさんは少しニヤと笑って、「ああ」といったあと、
「騎士は精鋭ぞろいで、物足りないぐらいだ」
ピピンさんが苦笑しました。
「ところでヴィーナス、私は喉が渇いたのだが、ファインぐらいはいいだろう?」
ちなみにファインとは、果物から作る醸造酒でワインみたいなものです。
「そうですね、一杯だけですよ、酔っ払いを私では抱え切れませんからね」
聞いていたピピンさんが、
「ではトイレのついでに、一杯頼んできましょう」と、席をたって注文に行きました。
ピピンさん、報告を受けに行くのでしょう。
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