かりそめの侍女
とまれ!
騎乗した騎士の一団が、この馬車を止めました。
いよいよお迎えが来たらしく、先ほどの作戦会議の通り、私は侍女のふりをします。
サリーさんを思い出しながら、必死でその挙動などを真似している自分が、少々おかしいです。
黒服の男が馬車に乗り込んで来て、私たちを一瞥、ダフネ様はどちらですかと云ったので、私はこちらの方がダフネ様です、と紹介しました。
男は頷くと、手袋をはめた手で、大事そうに持ってきた手紙をダフネさんに捧げながら、
「メイピール国王陛下のお名において、ダフネ様ご一行を歓迎いたします」
こういって、恭しく差し出しました。
ダフネさんは一言、「ご苦労様です」と云った。
なんかダフネさん、かっこいい!!
もとい、ダフネ様、素敵ですわ!!
「失礼ながら、これよりご案内いたしますが、婦女子の馬車に、同乗する無礼をお許し願いたい」
でも、婦女子の馬車といわれますが、駅馬車なのですけどね……
ダフネさんは頷くと、私たちに向かって、顎で指示を出したので、男をダフネさんの前に座らせ、ダフネさんの横は護衛であるビクトリアさんが帯剣して座り、男の横に私が座りました。
ダフネさんが、「では参りましょう」と云います。
男は私に向ってこう云いました。
「私はピピン申しますが、侍女殿のお名前は?」
ダフネさんを見ると頷いたので、
「ヴィーナスと申します、お見知りおきください、ピピン様」
と応えました。
「では、騎士たちに出立と声を掛けてください」
私は馬車の窓から顔を出して、近くに控えていた騎士に声を掛けました。
「ピピン様が出立とおっしゃっています」
騎士は真っ赤な顔をして、「行軍」と、すごい大きな声で怒鳴りました。
ダフネさんが、王都まであとどれくらいかと聞くと、半日ほどとの答えが返ってきました。
その後、男が弁解するように、
「ご存知のように、わが国とアムリア帝国とは緊張状況にありますれば、国境付近への兵力の増強は控えたく、このような王都の手前でのお出迎えとなり、申し訳ございません」
それにしても国境から何日も来ています、それに兵力といっても一個小隊もいない。
この騎士たちで、何が軍事的脅威ですか!
なんらかの手違いで、王の手元に書簡が届くのが遅れたのではないですか?
変な弁解と感じたら、ダフネさんが黙って私を見ているので、ここは話を切り替えるべく、また変と感じたのを男に知らせるように、唐突にいいました。
「ダフネ様、王都はきっと素晴らしいところでしょうね、何といっても、天下のホラズム王国の王都ですもの」
我ながら陳腐な芝居に苦笑したが、別に隠すこともしませんでした。
と、ビクトリアさんも助け舟をだしてくれました。
「今日はよい天気だ、王都についたらうまいものを食いに行こう」
ビクトリアさん、いくら当たり障りのない話題でも露骨ですよ。
もう少しオブラートに包んで、腹芸を!
えっ! ビクトリアさん、それ本音ですか?
ダフネさんが吹き出して、それにつられて私も笑ってしまいました。
ピピンさんはホットした顔をしましたが、一言「感謝します」と云っています。
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