神聖教大賢者


 ダフネさんは、私たちを招き入れてくれました。

 家の中は、それはもうピンク色で埋め尽くされて、エラムでいうのもなんですか、少女趣味の見本市みたいな状態です。


 私たちにお茶を勧めながら、

「黒の巫女様のご光臨に際し、お迎えに出なかったことをお詫びいたします」

「私は、もう引退している身ですので」

 と云っていますが、私はよく呑みこめません。


 私は聞いて見ました、

「なぜ私を黒の巫女と呼ぶのですか?」

 ダフネさんは、

「こう見えましても、私は元神聖教の大賢者、見誤ることはありません」


 ダフネさんは私の隣に座ると、

「黒の巫女様のお名前は、なんとおっしゃいますか?」と、聞きますのでヴィーナスと答えると、

「そうですか、それにしてもヴィーナス様はお綺麗ですね」

「私も大賢者を長く勤めましたが、これほど綺麗な女性には、出会ったことがありません」


 ビクトリアさんを見て、

「ところでそちらの人は、もうお手をつけられましたか?」

 ビクトリアさんが剣に手を掛けています。


 さすがに私もいい気はしません。

 ビクトリアさんへ、「帰りましょう」と声をかけ、席を立とうとするとダフネさんが、

「黒の巫女様、真実をいわれてお怒りになるのは、短気かと思いますよ」

 と云います。


 癪に障りましたが、真実は真実ですので、黙って座り直しました。


 ダフネさんが、

「ヴィーナス様と呼ばせていただいて、よろしいですか?」

 というので頷きました。


 ビクトリアさんが、

「元神聖教の大賢者といわれるが、先代とは名前が違うが?」と聞きます。


「私は三代前の大賢者、もう名前など忘れられて久しいでしょう」

「それに、先代といわれる方は大賢者代理、ここしばらくは大賢者は選出されていませんよ」


 ビクトリアさんが、

「その割には年齢が合わないが」と聞きますと、

「年齢など、何とでもなるのはビクトリアさん、貴女もご存知のはず、確か三百七十二歳ですか、大陸一の女傭兵ビクトリア」

 ビクトリアさんが固まっています、そう、ビクトリアさんはお婆さんなのですよ。


 ダフネさんが、

「このようなことを言うのは、心苦しいのですが、女性だけの内輪の話ですからね、ちなみに私の年齢は、ビクトリアさんを小娘と呼べるレベルです」


 確かに魔女でした。


 ダフネさんはビクトリアさんを黙らせたあと、私に向って、

「まぁ腹の探りあいは止めにしませんか?私はヴィーナス様の目的を、教えていただきたいのです」


 腹の探りあいを仕掛けたのはそちらでしょう。

 しかし、訪ねたのは私なので、正直に、この世界の見聞ですと答えました。


「いままでの見聞で、この世界をどう思われましたか?」

 と聞かれるので、「善し悪し半々」と答えました。

「正直ですね、もっと飾られるかと思っていました、さすがに黒の巫女様です」

 あまり貴女に褒められても、嬉しくありません。


「神聖教には伝承があります、神話といっても良いかもしれません」


 女神からの黒き乙女、

 黒の巫女が現れるとき、

 頭をたれてお迎えせよ、

 心改め、我らの過ちを繰り返すな。


「私にはどういう意味か分かりません、ヴィーナス様はお分かりになりますか?」


 最初の手紙を読んでいる以上なんとなく、わかる気がします。

「何かの文章の一部でしょう、前後の文章があれば明確でしょうが」と答えました。

 ダフネさんは深く考えていました、何かを。


 吹っ切れたような顔をしてダフネさんが、

「数々の無礼をお許しください、特にビクトリアさんには深く謝ります」

「今日はゆっくり、ここで過ごしてください」


 私はお願いすることにしました。

「ダフネさん、私たちのことは内密にお願いできませんか」

 ダフネさんは、

「引退した身です、教団に知らせる義務はありません、ヴィーナス様のご希望のようにいたします」

「私は元大賢者、黒の巫女様のしもべであります」


 またここでも……


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