死の女王とその従者
ビクトリアさんは元気です。
私から見ても、山賊さんは有象無象、これではキリーの町の若い衆のほうが、よっぽど山賊?
正確には海賊らしいでしょう。
なにか手当たり次第にのしていきますので、私の杖はお留守番状態、少し寂しいような。
一度だけ、精強な一団に襲われました。
かなり統制のとれた精鋭部隊で、一個小隊三十人ほどです。
だれかを襲撃していたみたいですが、偶然鉢合わせした私たちに気が付き、私たちも一緒に、あの世へ送るつもりだったようです。
女二人とあなどったのでしょう、そのうち十人ほどが襲って来ました。
ビクトリアさんが、小雪さん譲りの太刀捌きで、そのうちの半数ほどと渡りあっています。
私も残り半数と対峙しましたが、自分でいうのも変ですが、私の杖術もたいしたものですから、それほど手間を取りません。
当面の敵を片付けたころ、残りの敵が私たちに矛を向けてきました。
襲撃されていた相手は虫の息で、私たちを先に始末した後、本来の相手の止めを刺すつもりでしょう。
何かを投げてきました。
ビクトリアさんの肩に、ナイフが突き刺さっています、と、ビクトリアさんが崩れ落ちました。
毒が塗ってあったようで、私は我を忘れ、この世界に来て、初めて激怒したのです。
私は取りあえず、ビクトリアさんの治療をイメージし、しばらく寝ていてもらいました。
そして……
「私の大事な人に傷をつけた以上、無事では済まさん、貴様らには、恐怖の果てに死んでもらう」
何かが目の前の空間に集まりだし、見る見る形を創っていきます。
私が憎悪のイメージを、実体化させたのです。
そのものは、白い骸骨に黒いぼろぼろのガウンを纏い、不気味な鎌を手に持った、死神のイメージです。
黒い眼窩の奥には、不気味に燃える赤い光が見えます。
その物の周りの生きる物は、腐食していきます。
恐ろしい姿です。
私はその物に命じました、
「死神よ、汝の使命を果たせ」と。
残りの20名は、恐怖の果てに死に絶えました。
私はビクトリアさんを抱きしめました。
大丈夫とは分かっていましたが、涙が滲みます。
私は反省しています。
ビクトリアさんの事で、激怒したのはしかたないことです。
そして襲撃者に死んでいただくのも、しかたないことでしょう。
なんといっても命の問題です、しかしもう少し哀れみをもって、接してもよかったのではないか。
死の尊厳をもう少し厳粛に、受け止めても良かったのではないかと。
私はビクトリアさんを膝に乗せて、その髪をなでながら一人呟いていました。
ビクトリアさんが目をさましたので、「大事ないですか?」と聞くと、ビクトリアさんは「油断した」といい、苦笑していました。
「あるじ殿の膝枕か、いいもんだ」
と小さく呟くのも聞こえました。
さて、虫の息の方を見に行きましょう。
三人ほどの男の方です、商人のようです。
重症ですね、でも命に別状はなさそうです。
でも私をみて、恐怖の表情を浮かべています。
「大丈夫ですか?」と声をかけますと、びくっとして固まりました。
しかたがないので、まず怪我を治してして差し上げました。
その男は、「ありがとうございます、死の女王様」といって、そそくさと逃げていきました。
死の女王……
どこかで聞いた名前です。
「死の女王とその従者か……」
「私はサリーと違い、傭兵だったから人の死には慣れている、幾人もこの手で殺した、血の匂いに酔った時もある」
「エラムではこれは日常なんだ、だが先ほどのあるじ殿の言葉を聞いた、私は惚れ直した」
私は思わず、ビクトリアさんをじっと見つめて……
しまった!
私に見つめられると、たしか……相手は、欲情……
地雷を踏んでしまいました。
まだ陽は高く、死体の転がる街道で……
私はもじもじとしているビクトリアさんを、引きずるようにして街道をはずれ、野宿の準備をする羽目になりました。
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