海獣退治


 小雪さんとビクトリアさんが宿へ逗留して、一息おいた時、爺さんが入って来ました。

 挨拶と偵察に来たのでしょう。


 小雪さんが、

「ヴィーナス様の愛人の小雪です」と云っています。

 ビクトリアさんと私は、大きなため息をつきました。


 爺さんが、

「おさかんじゃのう」と、ニヤッと笑います。

「で、そちらの方も愛人かの」と云いますので、ビクトリアさんが、

「ビクトリアという、愛人にしてもらえると嬉しいと思っている」

 ビクトリアさんまで……


 爺さんが、

「そうじゃろう、分からんでもない、この魔女さんは、この世のものでないほど、綺麗じゃからな」

「なんせ、わしの孫娘まで惚れておる、落ちん娘はおるまい」


「それに、若い衆には分かるまいが、わしは魔女さんには時々男を感じる」

「言葉を細かくいうと、男気を感じるのじゃ、見る者が見れば分かる」

「その点、今の若い衆はだめじゃな、魔女さんの美貌にいちころじゃ」

「魔女さんの前に出ると、前を押さえよるわ」


「わしは色気という点では、先ほどのサリー嬢が一番じゃ」

「悪いが魔女さんでは、なんともないが、サリー嬢にはぞくとした。まぁいないから言えるがの」

「あんたらも、色気という点ではまだじゃ」


 ビクトリアさんが、

「謙虚に受け止めておく」と、云っています。


「ところでお爺さん、なんの御用で、まさか女の品評会ですか?」

「辛辣じゃな、魔女さんは」

「実はの、ウミサソリキングの新しい生息場所が見つかったのじゃ、そこであんたらの出番というわけじゃ」


 ビクトリアさんが、「巣穴か」と聞くと「巣穴かどうかは分からんが、集団でいる」との返事です。


 小雪さんがビクトリアさんへ、「ではそのボウガンで滅してはどうですか、いい機会です、勉強になるでしょう」

 そして、「お爺さん、私に何か得物を貸していただけないでしょうか?」


 爺さんはしばらく考えて、おぉーい、と宿の人を呼ぶと、

「わしの剣を持って来い」と云いました。


 剣が届くと、「ヴィーナス様、魔法でこの剣が切れるようにと念じてください」と云うので、そのようにイメージすると、剣の刃先が鈍く輝き始めます。


「では行きましょう、その生息場所とやらへ」

 小雪さん、明日でもよいではありませんか。


 小雪さんが、

「ヴィーナス様のお手を煩わせる分けには行きません。私たちで十分です、というよりビクトリアで十分でしょう」

 小雪さんは仕切り屋でした、鍋奉行ですか。


 ウミサソリキングの生息場所に案内されると、かなりいますね。

 物もいわずに、ビクトリアさんがボウガンを構えます。


 矢の先端に、赤い光が纏つきます。

「グレネードオン!」


 魔弾というべき矢が、打ち込まれますと、砲弾の破裂するような、地響きするような音がします。

 ウミサソリキングは、殆どが動かなくなりましたが、二匹ばかり、こちらへ向ってきます。


 小雪さんが剣を持って、駆けて行きました。

 「ふん」と気合をいれて飛び上がり、一匹を斬り下げました、横殴りにもう一匹を払います。

 足が二三本ちぎれたようです、そこへ再度「ふん」と飛び上がり、袈裟懸けでけりをつけました。


 美しいと思いましたね、戦の女神とは今の小雪さんでしょう。

 ビクトリアさんが、

「美味しいところを持っていく」と、愚痴っていました。


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