漁師町


 サリーさんも慣れたみたいで、

「お嬢様、無粋な物がまた」

 などと云っていますが、そんなことより、ご飯にしましょうよ。


 アリスさんが、「お姉さま、あれはなんだったのですか?」と聞きますから、「多分ウミサソリの一種でしょう。」と答えておきました。


 地球のシルル紀後期に生息した学名『プテリゴートゥス』に似ているような気がします。

 地球の基準で三メートルでしょうか、でっかいです。


 幼いころによく見た図鑑に載っていましたね。

 大きな目と小さな目が二つずつ付いています。


 プテリゴートゥスは、尻尾と後ろの足がヒレのようになっていて、泳ぎが上手そうですが、エラムのウミサソリはそのようにはなっていません。

 海洋を泳ぐようには、なっていないのかもしれません。


「それよりアリスさん、ほっぺたにご飯がついていますよ」


 サリーさんたち三人とビーチで食事、久しぶりの日差しを浴びて楽しい一日です。

 周りを取り囲む、このでっかい無粋なものがいなければですが。


 そんなことを気にしなければ、夜は神秘的でした。

 私はクッカーとストーブを出して、木質ペレットを投げ入れています。


 サリーさんに、

「このストーブでのキャンプは二度目ですね、あの時は正直どうなるのか不安でした」


「いままで支えてくれて、ありがとうございます」

「すこし夜の関係にもなってしまいましたが、私は感謝しています」


 私はココアを作り、サリーさんへ渡しました。


「サリーさん、私は世界を救えるのでしょうか?」

 サリーさんが黙って髪を撫でてくれました。


 次の日、目を覚ますと、電撃フェンスの周りはウミサソリで一杯……

 すこしイラッとしましたね、そろそろここを離れましょうか。


 私たちは、朝をパンの缶詰と缶牛乳で済ますと、引き払うことにしました。


 このごろ私は、魔力をかなり正確に使えるようになっています。

 例の電撃杖を取り出すと、周りに高圧電流の流れをイメージ、百メートル四方の私たち以外の生物へ、落雷するように重ねてイメージしました。


 どぉーんと音がして、周りに動くものがいないことを確認、今度は電撃フェンスが消滅するイメージ。

 さらには空気の温度差をイメージ、風を発生させて、灰になったウミサソリを海に還しました。


 安全と思われる場所まで行くと、防御のためのイメージを停止しました。


 私たちは海辺の漁師町へ向かっています、やっと人が見え始めました。

 漁船が見えますが帆船です、どうやら中東あたりのダウ船に似ていますね。


 しかしあのでっかいウミサソリのいる所で、よく漁ができますね。

 私たちが町を歩いていますと、人々の視線を感じます。

 どこの者?というような好奇心の混じった視線です。


 私は網を繕っているお爺さんに、「こんにちは、どこかに泊まれる所は無いですか?」と聞きました。


 そのお爺さんは、「嬢ちゃんたちは、どこから来たね」と聞きますので、「アルジャから来ました」といっときました。

 まさかリリータウンとはいえませんよね。


「えらい別嬪さんじゃな、良くこんな所へ来たものじゃ」

 詮索が入っています、ここはうまく繕いましょう。


「ご存知のようにアルジャは山間の僻地、私たちは海を見に来ました」

「なるほど、しかし海は危険な場所、海獣が出るのを聞いておるだろう?」


「大丈夫です、私は魔法士です、此処へ来る途中にも、海獣の様なものが襲ってきましたが、退治しました」

 嘘ではありませんから……


「そいつは多分、ウミサソリキングじゃろう」

 まんまじゃないですか。


「でそちらの嬢ちゃんは?」というので、「私のお友達と妹です」と答えます。


 とっさにサリーさんが、

「ヴィーナスさん、お仕事のおじゃまになりますわ、お爺さん、宿屋を教えてくださいませんか?」

 サリーさん、ナイスホローです。


 お爺さんは、笑いながらサリーさんを見て、

「警戒せんでもいい、失礼したの、一応、嬢ちゃんたちはよそ者でな、警戒するに越したことはないのでな」


 さらにお爺さんは、

「頼みがあるのじゃが、ウミサソリキングをやっつけた、その魔法の腕を見せてくれんかの、まぁ話は本当と思うが、あのウミサソリキングは、なかなかのものじゃから」


 ここはお爺さんのご要望に、答えたほうが無難と判断しましたので、

「分かりました、ウミサソリキングはどこにいますか?」

 私は、まだ電撃杖を持っていました。


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