リリータウンのある日


 さて、ビクトリアさんは服など一切購入しません。

 野暮ったい支給の作業服で十分らしく、よく缶ビールを飲んでいます。

 つまみにはまってしまって、やれナッツだ、イワシ缶だとか、うるさいことです。


 近頃、デニムのつなぎが気に入ったのか、よく着ています。

 上はTシャツで、ブラなどつけてくれません。

 例のハレム騒動以来、完全に悟っているビクトリアさんです。


 サリーさんはこれまた困りもんです。

 最初のワンピースが可愛いと、私が言ったものですから、以来お色気全開での看護師ワンピースで、「お嬢様」と私に詰め寄ってきます。

 ガーターベルトなどという、必殺兵器を手に入れたようです。


 最後にアリスさんですが、普通に平然と仕事をしていますが、ときどき直接的な言葉を発します。

 どうも変なデーターを設定されているらしく、このアンドロイド娘にも非常に困っています。


 これはもう私が姉になって、教育しなくてはと、近頃考えています。

 元男の私が教育するのは変ですが、あの二人にまかせては、この娘の将来が……

 いつのまにか姉になりきっています。


 お願いだからアリスさん、勉強してくださいね。


 この三人に囲まれて、私はよく屋上庭園でお茶をしています。

 午後のティータイムを日課として、女性らしくおしゃべりを楽しんでいます。

 なにかこんな日常に癒されています。


 このまったりしたひと時、さすがにこの三人も、お色気全開モードが、健康なお色気にダウンします。

 このような何となく平穏な時って、いいものですよ。


 サリーさんもビクトリアさんも、色々な過去があったでしょうが、ここまでやっときたのです。

 ひと時幸せを感じるのも、悪くはないでしょう。


 そうだ!

 私が皆さんに音楽をプレゼントしましょう。


 私はバンドネオンとギターが上手いのですよ。

 私の個室から二つの楽器を抱えてきて、演奏を始めました。


 サリーさんもビクトリアさんも、辛い過去がありました。

 こんな私のために、これからもお付き合いしてくださる人たちです。

 せめて皆さんの魂の幸せを、私は望んでいます、だから心をこめて……


 ラ・クンパルシータを弾いて見ましょう、アルゼンチンタンゴの名曲です。

 サリーさんがうっとりと聞いています、こんなサリーさんはとても綺麗です。


「この曲で踊ることができるのですよ、手を取り合って踊るのです」

「ビクトリアさんなら、男装の麗人として私をリードしてくれると嬉しいですわ」

「サリーさんなら、私が男装して、リードいたしましょうか、いつかみんなで楽しくおどりましょう」


 おっと、アリスさんを忘れてはいけませんね。

 私はマイム・マイムを弾きながら、

「アリスさんとは、この曲で踊りましょうね」


 私はギターで、『アルハンブラ宮殿の思い出』も弾いています。心に染みる名曲です。


 演奏終了後、サリーさん、ビクトリアさんからも、歌を歌ってほしいとお願いされました。

 私はピーター・ポール&マリーの曲を歌うことにしました。


 『パフ』からはじまり、『500マイル』、『レモンツリー』、『花はどこにいった』、の4曲です。


 最後に、なにか良い歌はないかと考えた結果、『昴』を選びました。

 この歌の意味を皆さんに知らせたいと強く願うと、自然とエラムの言語での、歌詞が頭で響きます。


 これからの私たちに、幸多かれと願い歌いました。

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