鍵の登録


 ビクトリアさんは、即答しました。

「私はあるじ殿の物、物に判断の力はない。あるじ殿がいなければ、私に生きる力はない。あるじ殿が私に来なくて良いとお思いなら、この剣で突き刺していただきたい」

 と、剣を差し出しました。


 サリーさんが、

「ビクトリア、ここを越せば戻れませんよ、貴女には肉親など、いないのですか?」


「私にはいない、私は謀反の嫌疑を掛けられ、一族が殺された中、唯一生き残った女だ」

「傭兵家業を長く勤め、もうそろそろ人生を終わりたいと思っていた、そしてあるじ殿と出会った」


「あるじ殿は何かが違う、私の感がそういうのだ、だから無茶ないいがかりで、あるじ殿の側にいようとした」

「私は全力で戦ったが瞬殺された。私はあるじ殿についていく、なにがなんでもだ」


 さらにビクトリアさんは言葉を繋ぎます。


「あるじ殿、私の全てを捧げる、身も心もだ、女の覚悟を信じてくれ」

「命じられれば、どのよう敵とも戦おう、たとえ一人になっても、あるじ殿のために剣を振るおう。戦士の覚悟を信じてくれ」


「分かりました、もう戻れませんよ」


「ビクトリアさん、私は確かにヴィーナスと名乗っていますが、これはこの世界の名前です」

「さらにこの世界では、もうひとつの名前があります、黒の巫女といいます」


「貴女は私の従者の一人になりますが、そのためにはそれなりの覚悟が必要だそうです、私は詳しくは知りません、サリーさんが説明してくれます」

「サリーさん、よろしくお願いします」


 サリーさんはビクトリアさんに、耳打ちしながら説明しています。

 説明しているサリーさんが、恥ずかしそうにしていますが、ビクトリアさんは表情ひとつ変えません。

 平然と仁王立ちして聞いています。


 説明を受けた後、ビクトリアさんは云いました。

「あるじ殿、可愛がってくれ、末永く仕える」


 私たちは宿を引き払い、街を出てだれもいない場所へ移動しました。

「サリーさん、頼みます」

 というと、サリーさんが目の前の空間に、ドアがあるかのように手を差し出し、何かを掴んだようにして、手を押し出しました。


 するとポカッと空間が開いたのです。


 サリーさんが、

「どうぞお嬢様、そしてビクトリアも」

 私たちはその空間へ踏み込みました。


 踏み込んだ先は、九畳程度の細長い部屋でした。

 ロッカーみたいなものが置いてあり、それぞれにヴィーナス、サリー、ビクトリアと、札が貼ってありました。

 奥にドアが一つあります。


 サリーさんが服を脱ぎました。

「お嬢様、ビクトリア、ここでは服を脱ぐことが決まりです。服や装備はこのロッカーに入れてください」

 サリーさんとビクトリアさんは、さっさと脱いでいます。


 サリーさんが、「ビクトリア、手伝って」と、私の服を脱がしにかかります。

 心なしか二人は楽しそうです。

 この二人は変態です、確信しました。


 私は、サリーさん達と次の間に入ります。

 次の間は医務室みたいな所で、ベッドが一つあるだけです、私はフラッシュライトみたいな光を浴びました。

 サリーさんに促され、一人で次の間に行きますと、今度は本当に小さい、三畳ほどの部屋でした。


 バスロープのようなものが三着、ルームシューズとセットで壁に掛けてあります、それぞれにネームプレートが付けてあり、私はそれをひっかけ、ルームシューズを履いて、サリーさん達を待ちます。


 しばらくすると、顔を上気させた二人が入ってきました。

 二人とも汗まみれです、恥ずかしいことって何でしょうね?


 二人を見ると、聞くなと顔に書いてあります。

 二人がバスロープを羽織りますと、ドアが開き、そこに女の子が一人立っていました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る