私を買う?
次の日、私たちは居酒屋『ご機嫌な天使』を後にしました。
その日の朝、グスタフさんは昨夜の報酬をくれました。
おひねりがものすごくあったそうで、その半分だそうです。
グスタフさんに、ビクトリアさんが商都ホッパリアまで護衛をしてくれると云うと、
「それはいい、ビクトリアは大陸一の傭兵で、その名前を聞いただけで盗賊も逃げていく」
「それにこの金があれば、何とかビクトリアへの報酬になる」
横でビクトリアさんが苦笑していました。
「ところでヴィーナスさん、昨日のロールケーキの作り方を、教えていただけないだろうか?」
「今日も昨日の菓子はあるかと、お客様がうるさくて」
おしえてあげてもいいのですが、バニラエッセンスが手にはいりませんね。
面倒なので、
「グスタフさん、あの菓子はセリム家に代々伝わる秘伝のお菓子、だれにも教えるなといわれています。次にこの街に来た時は、また作りますのでご勘弁ください」
と言っておきました。
商都への馬車を待つ間、供を連れた一人の男がやってきて、こういいました。
「お前がヴィーナスか?お前の代価はいかほどか?親御はどこに住むか?私はアルジャ辺境伯である」
私の代価?
私を買う?
とビクトリアさんが、
「辺境伯殿、この方は私、ビクトリアが守護している、侮辱は見逃せないが?」
「ビクトリアが守護しているのか、ヴィーナスの実家は金満らしいな。しかしヴィーナス、売りに出されるときは、私が代価を払ってやる」
といいながら帰っていきました。
サリーさんとビクトリアさんは別に驚きもしません、ごく普通のことのようです。
このアムリア帝国はやはりおかしい。
ビクトリアさんに、
「私の代価って、どのくらいになるのですかね?」と聞くと、
「多分皇女より数倍高いだろう。いま売りにだされている皇女が、今朝グスタフがくれた報酬の十倍ぐらいだ。田舎ものの辺境伯に、おいそれとだせる金額ではない」
皇女が売りにだされている???
「この国はそんなに財政危機なのですか」と聞くと、長女である皇女は先の皇后の娘、今の后妃に眼の敵にされて、そのため、売りに出されているのだそうです。
皇帝は后妃には頭が上がらぬらしく、見て見ぬふりを決め込んでいるとの噂です。
「この国はつぶれる」
私は呟いてしまいました。
私が暗い顔をしていると、ホッパリア行きの駅馬車が来ました。
馬車といいますので、地球の四頭立ての馬車を想像していたのが間違いでした。
なんと馬ではなくロバです。
まぁロバでも馬の仲間ですから……馬車といえば馬車なのでしょう。
ホッパリアへは、この馬車で四日かかるとか。
毎日指定の宿に泊まり、朝に旅立つそうで、料金は前払い、結構高いらしく、あまり乗る人はいないと聞きました。
ちなみに、どこで降りても料金は一緒らしく、一旦乗ったらもったいないのでだれも降りない、途中からもだれも乗らないのが普通と聞きました。
ビクトリアさんが乗り込むのを見て、御者が嬉しそうにしました。
どうやら道中の盗賊除けにしたいみたいですね。
お客は私たち三人と、商用でホッパリアへ向かう商人らしき男が二人の計五人。
二人ともビクトリアさんを見ると挨拶にきました。
ビクトリアさん、超有名人です。
途中、盗賊団らしきものが道をさえぎったのですが、ビクトリアさんが剣を持って出て行くと、瞬間にかたがつきました。
御者が盗賊団を縛り上げて、馬車の後ろと屋根に縛りつけます。
なんでも引き渡すと、報奨金が出るそうです。
あれ、ビクトリアさん、盗賊団を御者にあげるのですか?
ビクトリアさんは鷹揚に、御者にも小遣いが必要だと云っています。
ビクトリアさんの雇い主ということで、ホッパリアまでの旅の間、私たちは丁寧に扱ってもらいました。
商人さんたちも、私たちにホッパリアのことを、細かく教えてくれましたね。
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