ビクトリア


 この後、私の作ったロールケーキで、お茶会といたしましょうね。

 私はサリーさんの隣に座りました。


「サリーさん、歌はいかがでしたか?アンコールの前の歌はサリーさんのために歌ったつもりです」

「あの歌は、奴隷売買に従事した男が悔い改め、神の道にはいった悔悟の歌です、私の気持ちでもあります」


「サリーさん、いつも私を見守ってくれるサリーさん、お姉さんのようなサリーさん、いつも側にいてくださいね」

「いつもいいますが、貴女は私のお友達、大事な人です。ご自分のことを奴隷なんて、決して思わないでくださいね」

 サリーさんが、私に抱きついてきました。


 そこへビクトリアさんが、

「おぉー、見事な口説き文句、この女たらしのヴィーナスさん」

 何用ですか、私たちは女同士ですよ。

 キッとにらんでやりました。


 ビクトリアさんが、「私も口説いてくれないかなぁ」

 何の戯言か!と、思いましたが、墓穴を掘りそうですので、話題を変えることにしました。


「ビクトリアさん、お菓子はお口にあいましたか、ご希望により作りましたけど」

 ビクトリアさんが、

「長く生きてきたが、あんなにうまい菓子は食ったことがない」


「ヴィーナスがここまで上手いとは思わなかった、魔法で作ったのか?」

「ビクトリアさん、綺麗なお顔をしているのに、そのお口は悪い口ですね。悪い口は、縫って差し上げますよ」


 ビクトリアさんは、この手の返事を待っていたようです。

 半ば強引に、

「口は縫ってくれてもいいぜ、ただし私と手合わせをして勝ったらな」

「ヴィーナスが勝ったら、私をどう扱おうと構わない、全てヴィーナスのものにしてくれて結構だ」


 なんですか!その芝居がかったセリフは!

 そもそも私が勝っても、私にそんなことできないのは承知の上でしょう。


「ビクトリアさんが勝ったらなんとしますか、私を自由にするのですか!」

 ビクトリアさんは、ニャと笑って、

「そんなことはしないが、私がすることに文句はいわせない。それを約束してくれたらの話とさせてもらう」


 サリーさんが不穏な動きをしていますが、場所を考えてくださいね。


「何か分の悪い条件ですね、でもいいでしょう、その条件とは?」

「私を雇ってもらおう、無償で」


 嵌められました、これでは勝っても負けても、ビクトリアさんは私たちと深いつながりを持ってしまう。

 私はため息をつきました。


 ビクトリアさんは、「正直、長く放浪していたので、主を持ちたかったのだ」と、白状しましたが本音はまだ隠していますね。


 私は、「時刻は私たちの仕事が終ってからとして、どこでいたしましょうか?」


 夜、私はビクトリアさんと対峙しています。

 闇夜の中の決闘となると、百戦練磨のビクトリアさんに有利ですが、私は負ける気がしません。

 杖道のイメージが沸いてきます。


 ビクトリアさんは木剣を、私は杖を持っています。

 ビクトリアさんが無言で突いて来ました、すごい早さです、神速と賞賛すべきでしょう。

 この闇の中、戦士の感で私を突いてきたのです。


 私は突いてくる木剣を杖で受け流して、その木剣に「エイッ!」と、気合を込めて打ち込みました。

 確か左貫さかんと呼ばれる技です。

 ビクトリアさんの手から、木剣がはじき飛ばされます。


 私は「ホォッ!」と叫び、お腹と思われる場所を突きますと、ビクトリアさんが崩れ落ちて行きます。

 勝負は本当に一瞬で終りました。


 サリーさん来てください、手ごたえがありすぎました。

 サリーさんが灯りを持ってきて、私を照らすと、ビクトリアさんは私の足元でうずくまっています。

 無言でサリーさんが手当てをしてくれました。


「ビクトリアさん、大丈夫ですか?」

と、声をかけると、ビクトリアさんは、両膝をつき両手を前に差し出し、この世界の流儀で私に云いました。

「私ビクトリアはあるじ殿のものです、あるじ殿のどのようなご命令にも従います」


 ビクトリアさん、貴女もですか?


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