サリーさん、激怒する。


「そんなに驚くな、私は傭兵だ。いま帝国からの依頼をこなし、山賊退治から帰ったばかりだ、おまえは?」

「ヴィーナスといいます。ホッパリアへ向かう駅馬車が出るまでの、アルバイトです。」

 傭兵さんは私をじっーと見て、そうかといいました。


 そして、

「時間外だが、小腹が減ったのだ、何か食い物を持ってきてくれないか?それとそれを捨ててきてくれ」

 と、血まみれの下着を指差します。


 その下着を捨てに行く時、サリーさんに出会うと、不審そうな顔をします。

 いきさつを話しますと、サリーさんが烈火のごとく怒りだしました。


「大事なお嬢様に、なんてことをさせるのですか!」

 と、叫びながらサリーさんが走っていきます。

 これは大変なことになる気がします。


 私もついていくと、サリーさんは物もいわずに傭兵さんの部屋へ入り、

「貴女ですか、私のお嬢様を侮辱したのは、死んでわびてもらいます!」

 サリーさん、目がいっています、とても怖いですよ。


 サリーさんが、物騒極まりないものを取り出しています。

 傭兵さんは一瞬で剣を構えました、並々ではない技量です。


 私はとっさに、サリーさんの銃をたたき落として、

「サリーさん!」と一喝、

「落ち着いてください、サリーさん」

「この方は悪気のかけらもなかったのですよ」


 サリーさんもやっと我にかえり、

「失礼しました、お嬢様、でも……」

 サリーさん、私のために、ありがとう。


 私は振り向いて、傭兵さんにいいました。

「申し訳ありません、私のレディーズ・メイドが失礼をしました」

「私を思ってしたことですが、貴女様には何の関係もないこと。どうか私たちの謝罪を、受け取って下さりませんでしょうか?」


 傭兵さんも剣を納めてくれて、

「ご丁寧に痛み入る、私も戦場から帰ったばかりで、配慮が足りなかった」

「一目見た時に、なぜこのようなお嬢様然とした人が、雇われ人をしているのか、もっと考えるべきだった。」


 そしてサリーさんへ向かって、「私の配慮のなさをお許し願いたい」と、丁寧に頭を下げたので、サリーさんも怒ることができなくなり、「大変失礼いたしました」と、いつものお淑やかなサリーさんに戻ってくれました。


 傭兵さんは或る物を見たはずです。

 その物はどうしてか分からないが、すぐに見えなくなった……


 この傭兵さんは優秀です、歴戦の女傭兵と見受けられます。

素知らぬ顔をしても、この傭兵さんは喋らないとは思いますが、ここはお願いしてみましょう。


「素直にお願いします。見たものがあるはずですが、見えなかったはずです」

 傭兵さんは、

「見たものはあるが、見えたと思えるものは記憶にない」

 と云ってくれました。


 私は「お食事の用意をいたしましょう」と言い、部屋を出ます。

 サリーさんが、「申し訳ありません」と謝りますが、

「サリーさん、ありがとう、私のことをこんなにも思ってくださるなんて」

「サリーさん、大好きですよ。」


 サリーさんの顔がぽっと赤らみ、

「これを捨ててきます」と、問題の『ふんどし』をあたふたと捨てに行きました。


 グスタフさんに、

「新しくお泊りになられた、傭兵のお客さんが、軽くお食事をしたいとおっしゃっています」

と伝えますと、

「女性相手なのでヴィーナスさん、お願いできますか?」

「いいですよ」と返事し、食事を持っていきました。


 傭兵さんの部屋へ食事を運び、テーブルの上へ用意をしています。

「ビクトリアだ」と、傭兵さんの名前のようですね。


 ビクトリアさんは私に興味津々らしく、穴の開くほど見つめてくれます。

「そんなに物珍しいですか?」と聞くと、「物珍しい」と、口数少なく云います。

 この人は少し苦手なタイプかもしれない。


「一つ聞きたい、貴方は魔法士か?」

「ヴィーナスです、名前です」

 そして、「私にも分かりませんが、多分そうでしょう。それもあり、調べるためにホッパリアへ向かうのです」


 ビクトリアさんは「嘘だな」と、云いましたが、

「それが建前で、建前が真実です」と、答えておきました。


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