帝国騎士団総長ご一家


 ピエールさんは、

「恩人に隠しごとはしたくない、あんた達のことは今朝、村で聞いた」

「ものすごい別嬪が、傭兵崩れの盗賊団を叩きのめしたと、村ではあんた達のことを、死の女王とその従者と呼んでいたよ」


「でも俺は昨日のことで、あんた達はそんなんじゃない、こいつとも話したのだが、ひょっとすれば黒い巫女様ではないかと話していたのだ」

「俺はあんた達が死の女王でも、黒い巫女様でも、どちらでもいいのだ。妻を救ってくれたことに変わりはない」


「俺はその昔、アムリア帝国の騎士だった、やっと帝国騎士団総長になったので妻を娶った、妻は帝国の女官だった」

「あるとき、王子が妻を側室によこせといってきた。俺は断り、職を辞して帝国を去ることにしたが、帝国を去る当日、家に火を掛けられ、夜襲を受けた」


「死体を偽装して、何とか切り抜けたが、この事態となってしまった。俺はこの村の出身だ、村の長を頼ると、リスク覚悟で、ここの教会の管理人にしてくれた」


「俺はアムリア帝国と無関係だ、だから俺を信じてくれてもいいと思う」

「あんたたちは悪い者じゃない、騎士団総長までした俺だ、人の善し悪しぐらい分かるさ」


 私とサリーさんは、アンリエッタさんが回復するまで、ご厄介になることに決めました。


 私たちはアンリエッタさんの治療を続けています。

 さすがにアンリエッタさんにしたような治療はしていませんが、ピエールさんもジャン君も治療を受けています。


 着実に三人とも良くなっています。

 特にジャン君は子供、急速によくなってきて、足の火傷もほとんど分らないほどになりました。


 半月ほどたって、アンリエッタさんの包帯が取れ始めました。

 火傷の痕も、薄い痣ぐらいになって来ています、この調子ならあと半月ほどで、治るのではないのでしょうか。

 でも屋外に出るようになるには、さらにもう半月ほどかかるだろうと思います。


 アンリエッタさんは大分良くなってきて、今では食事なども作れるようになっています。

 ジャン君は、お母さんが元気になったのが嬉しいのか、子犬のように足にくっついています。

 男の子なのですよ、甘えん坊になってきて、ピエールさんもだんだん頭がいたくなるでしょう。


 私たちに、アンリエッタさんはよく家事裁縫を教えてくれるのですが、なんでもできるサリーさんが、料理だけは苦手らしく、よく得体の知れないものを作っています。

 さすがのピエールさんも、この料理だけは丸飲みの模様です、サリーさん、料理は諦めなさい。


 この教会は、エラム特有の森の中、ぽっかり開けた場所の湖畔に臨んで建っており、私はよくこの教会の広場に、椅子を持ってきて景色を愛でています。


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