術後


 私は丸一日寝ていたらしい……

 空腹で目が覚めました。


 アンリエッタさんのご主人が、食事の用意をしてくれているらしく、おいしそうな匂いが漂っています。

 食事の匂いにつられて起きるなんて、女としてなら失格でしょうね。


 隣ではサリーさんが眠っています。

 綺麗な栗毛色のポニーテールも、激動の二日ほどでグシャグシャですね。

 私は思わずサリーさんの手を握って、「ありがとう」と感謝を述べました。


 ドアをノックする音が響きます。


 ご主人が食事を運んできてくれたのです。

 ピエールさんという名前でした。


「昨晩はありがとう、妻も今朝は具合が良いようで、膿も出なくなった」

 この熊男さんは、窮屈そうに頭を下げて、

「何もないけど食べてくれ」


「それから服だけど、妻の古着でよければ着てくれ、置いていく、その服は血だらけだ」

「湯浴みなら隣にタライがあるので、湯なら言ってくれ」

 そこで、「ピエールさん、できたら湯をお願いします」と言うと「わかった」といい、ノッシノッシと出て行きました。


「サリーさん、起きてください」

 ところでいま何時かと思いましたが、よく考えればこの世界の時間の単位が分からない、どうやら昼過ぎのようです。


 お腹が減って目が覚める。

 子供のようだなと思っていると、サリーさんがやっと目覚めました。

「お嬢様、お腹が減りましたね、いい匂いがします」

「ここのご主人が作ってくれたそうです、とにかく食べましょう」


 それにしても豪快な料理です、大きなパンがそのままゴロリと転がっています。

 何かの丸焼きが、これまたゴロリと転がっていて、ナイフとフォークが二本ずつ突き刺さっているのはご愛嬌というべきか、熊さんの料理と呼んであげましょう。


 またドアがノックされ、ピエールさんが、

「湯浴みの準備ができた、食事が終わったら、冷めないうちに入ってくれ」


 サリーさんが起きているのを見て、

「あんたも起きたのか、昨晩はありがとう」

 というとサッサといってしまいました。


「美女二人の寝姿を見せてあげたのに、褒め言葉も無いのかしら」

 と私が言うと、サリーさんが肩を震わせて笑っていました。


 入浴の為に隣室へ行くと、それは大きなタライで満々と湯が張られています。

 サリーさんを誘って、二人で互いの背中を洗い、その後、サリーさんが髪を整えてくれました。


 アンリエッタさんを見に行くと、まだ包帯が取れないですが、昨日のような膿が浮いていることもない。

 側で男の子が嬉しそうに、母にくっついています。

 ピエールさんも嬉しそうに側にいました。


「アンリエッタさん、お加減はどうですか?」

「感謝します、お嬢様方、このようなことがあるなんて、人生も棄てた物でもないですね。」


 ピエールさんが、

「おかげで妻もこの通り。俺はあんたらになんのお返しもできないのに、また虫のいい頼みをするのも気が引けるのだが、もうしばらくここにいて、妻を診てやってくれないだろうか?」


 ピエールさんの言葉に、私が「それは構いませんが……」と少し言葉を濁しますと、サリーさんが言葉を繋いで「私たちは薄々感じられているように、訳ありですが良いのですか?」と云います。


 ピエールさんは子供に向って、「ジャン、しばらく遊んでこい、お父さんはこのお嬢さんたちと、大事な話がある」といって、ジャンを外へだしました。


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