治療


「俺はこの教会の管理を任されて、ときどき見回りにきている者だが、あんた達は初めてみる人だ」

「聞けば巡礼らしいが、女性の身で俺と同じ屋根の下で寝ることになるが、怖くないのか?」


 私はこの人の言葉を聞き、嘘だと思いましたが、なぜか悪い人ではないとも感じました。


「ご迷惑のご様子ですが、もう夜がきます。女の身としては、夜になんの準備もせずに野宿というのは、いささか困惑いたしております」

「何かお手伝いなどさせていただきますので、ご無理をお願いできませんでしょうか」


 男の後ろから声が聞こえました。

「あなた、私たちは世捨て人みたいなものでしょう。せっかくお参りにいらっしゃった方たちです、ここは教会ですよ」

「さあ、お嬢さんがた、お入りなさい、私たちが怖くなければ一緒に過ごしましょう」


「失礼した、あなた達が私たちを見て、怖がるのではないかと思ったのだ。もし気にしないなら一緒に過ごしてくれ、客人は歓迎なのだ」

 と招いてくれました。


 ささやかな家でした、教会の管理人の住居のようです。

 全てが嘘ではないようです。


 私たちは通された部屋で、先ほどの声の主に会いました。

 上半身をほとんど包帯で巻かれた、婦人が横たわっています。

 男が「妻のアンリエッタです」と紹介してくれました。


 アンリエッタさんの横で、男の子がすやすやと寝ています。

 よく見ると、男の子の足にもひどい火傷の痕が残っています、一家で火事にでもあったのかと思いました。


 でもアンリエッタさんは、かなり危機的状況に見えます。

 包帯には膿だろうか、何か体液が滲み出ています、そもそも良く生きていられたような火傷に思えます。


 アンリエッタさんが起き上がろうとするので、私は「お楽にしてください」、と言ったのですが、上半身を何とか起こして会釈してくれました。


 包帯でよく見えませんが三度熱傷ではないでしょうか、とにかく感染症をふせがなければ……


 私は何とかしなければと思いました。

 このような体で、苦しいのに私たちを迎え入れる配慮を示す人を、見捨てるわけにはいかない。

 そう強く思ったら、頭の中に、対処法が浮かんできました。


 その対処方法とは、私が知る火傷治療とは根本的に違う方法です。

 原理は示されなかったのですが、これで、この人は助かるとの確信があります、でも一刻を争う状況です。


 私は叫びました。

「ご主人、今すぐ奥様を教会の祭壇へ運びなさい!」


「サリーさん、祭壇を掃除して消毒してください。消毒液は分かりますか?」

 サリーさんが頷くのを確認して、私はアンリエッタさんに言いました。

「必ず治して差し上げます」


 今の私は神懸りかもしれない、自身おかしいと思うが、構っていられない、目の前のこの人を助けるんだ。

 私がこの人を助けたとしても、この世界がどうなるものでもないだろう、でも私と出会った縁があります。


 サリーさんが、それこそ神速で空気を入れ替え、祭壇を掃除して消毒をしています。

 ご主人が、アンリエッタさんを抱え上げて運んできました。


 祭壇の回り、二メートルぐらいの立方体の範囲に対して、滅菌のイメージが湧いてきます。

 私はアンリエッタさんの包帯を取り、患部に手をかざすと、すぐに壊死した部分が分かりました。


 もう痛みも感じないようなので、その部分を切り離すイメージをもつと、スーと壊死した部分部分が、剥がれていくイメージが戻ってきます。

 アンリエッタさんに植皮をしようとすると、頭の中で違うという……


 何かIPS細胞というのか、壊死した部分の回りに対して増殖のイメージをもつと、その部分が白く輝きだして、傷の下から肉体の組織が盛り上がってくる感覚が返ってきます。

 それを少しずつ繰り返していきました。


 朝の日差しが、私に手を差し伸べる。

が、いまだ私は格闘しています。

 組織の再生を繰り返し、とうとう昼前に治療を終了させました。


 新しい包帯に巻きなおし、アンリエッタさんをベッドに戻して、ご主人に、へたり込んでいるサリーさんを寝室に運び込んでもらいました。

 後のことをこまごまと注意し、私自身、あてがわれたベッドへ身を投げ出した瞬間、意識が遠のいたようです。


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