忘れられた教会


 私たちは、また森の中を歩いています。

「サリーさん、また野宿ですね」


 ガルダ村を後にして、私たちは森に分け入りました。

 街道を行くと、今回のことで無用の詮索を、されるかもしれないからです。

 アムリア帝国では賄賂が横行しており、どんなことでも賄賂をとる対象にされると、帝国を行き来する旅人の間では有名だそうです。


 この森の中には、土地の者がときどき通る小道があり、道の奥に、神聖教の忘れられた教会があるそうです。

 私たちはそこへ向かうことにしました。

 しばらく、ほとぼりが冷めるのを待つためです。


 サリーさんによれば、本当は出迎えのために、居住する場所が作られていたらしいのですが、転移のときの障害のために、しばらく使用禁止になったそうです。


 このような理由で、私はこの世界を見聞しているのですが、ガルダ村の件もあり、しばらく目的の教会近くで、野宿生活をすることにしたのです。

 本当はベッドで寝たかったのですが、いたしかたありません。

 例の通販カタログの力を、借りるとしましょう。


 サリーさんは何か嬉しそうです。

「サリーさん、何か楽しそうですね。」

「お嬢様、先程はカッコよかったですね♪あの階段を降りられる後ろ姿は、女王の威厳がありました、お嬢様があんなにカッコいいなんて、私、嬉しくて♪」

 サリーさんは、まるで宝塚の親衛隊のノリです。


 でも私は、たとえ悪人でも、多くの人を殺めたのですっきりしません。

 やはり地球では命が重い、いや日本だから命が重いのかもしれません、しかしこの惑星では命が軽いのでしょう。


 他人がその星のシステムに、とやかくいうことではないでしょうが、私はもう関係者になってしまっています。

 どこかで折り合いをつけなければなりませんが、まだ慣れません。

 慣れは恐ろしいことではありますが、ある意味、必要な免罪符なのでしょう。


 慣れといえば、サリーさんは私の考えをよく察してくれます、サリーさんは私にとって、とても大事な人になっています。


「サリーさん、いつも一緒にいてくださいね」とサリーさんの手を握ってしまいました。

 サリーさんは「勿論です」と、私の手を握り返してくれます。


 私は女性になってしまい、右も左も分からないこの惑星で、サリーさんしか頼れる人がいないのです。

 なぜか寂しくて寂しくて、いま握っているサリーさんの手の温もりがありがたくて、なぜか姉を思い出してしまいました。


「サリーさんって、姉さんみたい」

 私って我儘です。


 もう夕暮れが近づいてきます。

 手を繋ぎながらも、心なしか急ぎ足で、目的の教会にたどり着きました。

 私たちは野宿を覚悟していましたが、そのとき教会に灯りが一つ、迎えるようにポッと輝きました。


 サリーさんは警戒していますが、私は疲れ果てていたので構わず、教会のドアを叩きました。

「今晩は、どなたかおられませんか?」


 しばらくしてやっとドアが開き、出てきたのは顔に大火傷の痕がある、熊のように大きな男です。

 私はギョッとしましたが、幸いフードを被っていたので分からなかったと思います。


「私たちはこの教会に巡礼にきたものです、長いこと歩いて来たので、一晩お部屋の隅をお借りできないでしょうか、朝には、少し離れた場所に移動しますので。」

 男はじっと私たちを見て、考えているようでした。


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