通販カタログ
いま私はサリーさんと野宿をしている。
この場所は安全ですと、サリーさんが云うので、私たちはキャンプすることにした。
サリーさんが遅れた訳を説明してくれた。
私の転移は、サリーさんの知らない方法らしく、どのような弊害が出るか、分からなかったそうで、おもわぬ障害が出て、迎える準備ができなかったらしい。
手紙によれば、サリーさんはそれほど詳しく知る立場ではないだろうから、何かあって、計画通り進まなかったのだろう。
サリーさんに、通販カタログのことを聞くと、サリーさんは少し首を傾げたが、小さいカバンに手を入れて、「これかしら」と云いながら取り出した。
よく見れば通販カタログである。
私はアウトドアのカタログを、サリーさんに取り出してもらい、その中よりキャンプ用品のクッカーとストーブ、それとファイヤースターターと木質ペレットを選択した。
するとサリーさんは、その小さいカバンより、折りたたまれた大きなカバンを取り出し、その中よりキャンプ用品を取り出して、私の前に並べた。
「これでよろしいでしょうか?」
私はとりあえずストーブにペレットを投げ込み、スターターで火をつけた。
電池でファンを回す電動ウッドストーブなので、火熾しも簡単である。
漆黒の森に囲まれ、地球ではもう見ることもかなわないであろう満天の星の下、ストーブの炎に照らし出されるサリーさんの顔は幻想的でもある。
「サリーさん、本当にお綺麗ですね」と言うと、サリーさんは始めてにっこり笑った。
嬉しそうに、「もう私は安住の場所を授かったのですから」と云いますが、なんかサリーさん、違うような気がしますが……
湯が沸いたので、とりあえずカップ麺をだしてもらい、湯を入れて差し出した。
サリーさんは飲み物と思っていたらしいが、食べ物といわれ驚いている。
「お嬢様、これは魔法ですか?」
魔法という言葉が出てきたので、この世界に魔法があるという手紙を思いだした。
サリーさんにあとで聞いて見よう。
サリーさんは恐る恐る食べ始めた。
おいしかったのか、すぐに完食していた。
「はじめていただきました」
そういえばサリーさんは、死にかけてからの二年間、どのように過ごしたのだろう。
聞いていいものだろうか?
まあ、そういうことも後にしよう。
私は次に袋菓子とチョコレート、インスタントのコーヒー、ココア、ミルク、砂糖を取り出しもらい、ココアを作ってサリーさんに渡し、私はコーヒーを作って飲んでいた。
サリーさんがココアを飲んだ瞬間に、陶酔したような表情を浮かべて、「これは何という飲み物ですか?」と聞くので、ココアですと答えた。
サリーさんは、このような甘い飲み物を、飲んだことがないそうだ。
さらにコーヒーにも興味を示し、飲んでみますかと聞くと、私の飲みかけを飲もうとした。
「サリーさん、新しいのを作りますよ」と言うと、「お嬢様の飲みかけを頂くことは、奴隷の身分としてはあり得ないことです。私は幸せ者です」と云うので、何もいえなくなった。
いつか自分のことを、奴隷と呼ばないようにしてあげないと。
でもサリーさんは、コーヒーの苦さは苦手のようで、その何ともいえない顔に、私は笑ってしまった。
サリーさんも照れくさそうにしていた。
やはり女性は、甘いものに目がないと思ったので、サリーさんにチョコレートを差し出して勧めた。
「サリーさん、これはお菓子です、きっと気に入りますよ」
サリーさんは恐る恐る、チョコレートを手に取った。
そして私をじっと見ている。
私は、はたと気がついた。
「サリーさん、こう食べるのですよ」
チョコレートの食べ方をレクチャーすると、尊敬の眼差しを感じた。
チョコレートの紙の取り方で、尊敬されるなんて反対に恥ずかしすぎる。
しかしサリーさんが、チョコレートを口に入れた瞬間、壊れた。
「おいしい!」
「おいしい!」
「おいしい!」
連呼しだしたぞ、目の焦点が合ってない、サリーさん、気を確かに。
今度は踊りだしたぞ、あっ泣きだした、貴女はチョコレートで酔っぱらうのか?
我に返ったサリーさんが、
「お嬢様、これはおいしいです、このチョコレートというものを頂けるのなら、もうすべてを投げ出します」
と、危ないことを云いだした。
私は袋菓子に手をいれて、ボリボリ食べている。
サリーさんはチョコレートを、口につけながらまだなめている。
絶世の美女二人の、この姿は爆笑ものであろう。
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