身の上話

「色々聞きたいのですが、サリーさん、まず私をご主人様と呼ぶのはやめられませんか?」

「大変申し訳ありませんが、こればかりは、けじめですのでご容赦願います」

「また、私をサリーと呼び捨てにしてくださいませんか?」


「サリーさん、私は人は基本的に平等であると教えられ、今まで信じて来ました」

「そのことは正しいことと思っています、今後も変わりません」


「確かにサリーさんは私の奴隷と、お手紙に書いてありました、しかし、私は貴女と友達にはなれても、奴隷の主にはなれません」

「私が貴女のことを呼び捨てにしたときは、親愛の情を持ったときで、そのときは、貴女も私のことを、名前で呼んでくれたときになります」


「しかしサリーさんの事情もあるのでしょうし、強要はできませんが、少なくとも私は、貴女がどう思おうが、貴女のことを奴隷とは思いません」


「どうかサリーさんも、ご自分のことを奴隷などと、悲しいことを云わないでください、貴女は素晴らしく綺麗なのですよ」

 サリーさんは泣きそうな顔をしている、目に涙が滲んでいる。


 思わずサリーさんを抱きしめていった。

「サリーさん、ごめんなさい、どうか泣かないでください」


「無作法申し訳ありません、でもありがとうございます」

「こんなにも優しい言葉を、掛けてもらったことがなかったのです」

 サリーさんの目から涙がボロボロ落ちている。


「どうかお聞きください、私は娼婦でした。十二歳のとき親に売られ、毎日毎日、恥ずかしい姿でお客を取らされていました」


「十八歳で身請けされたのですが、そこではもっとひどい虐待を受け、とうとう衰弱して死にそうになりました。そのとき声がして、ご主人様の奴隷になるなら、助けてやると云われたのです」


「それから二年、私はご主人様に仕えるために過ごしてきました。きっとご主人様は優しい方、奴隷の私に優しくしてくださると……」

 サリーさんから、悲しい雫がとめどなく流れていく。


 私はサリーさんの身の上を聞くと、涙が止まらなくなった、男らしくないとも思ったが、今の私は女である、構わないではないか、人の不幸を聞き、泣けない人なんか私は嫌いだ。


「サリーさん、これからは私と一緒にいましょう、貴女を奴隷と罵る人がいれば、私がひっぱたいてあげる、これからは同じものを食べ、同じ布団に寝て、私は貴女の悩みを聞かしてもらうわ、だから私の悩みも、聞いてくださいね」


 私とサリーさんは、互いに抱き合って泣いた。

 しみじみ私は女性になっていると、どこかで感じた。


 私はふっと思いついた。

「サリーさん、どうか私のことをご主人様ではなく、せめてお嬢様とは呼べませんか?」

「どちらにしろ、私はサリーさんと一緒なんですし、貴女がどうしても私に仕える立場にあるなら、この呼称はどうでしょう」


「お嬢様?貴族の下僕がよくいう言葉ですね、お嬢様」

 サリーさんにそう呼ばれるのも気恥ずかしいが、ご主人様よりはましであろう。


「サリーさん、できたら私のレディーズ・メイドになってくださいませんか、サリーさんは私の前の姿を知っているのでしょう?」


「私は正直、女の体になってしまって、戸惑っています、例えば恥ずかしながら、用足しの知識はあっても実感がありません」

「女性としての知識は皆無です。どのように行動すれば良いのかさえ、分かりません。」


「サリーさんには、私のことをお嬢様と呼んでいただいて、私の至らなさをフォローしてくださると、今後に大変好都合と思うのですが?」


「私がご主人様の、いやお嬢様のレディーズ・メイド?お嬢様の身の回りのお世話を、させていただけるのですか?」

 サリーさんの頬が少し赤くなっている。


「サリーさん、ご迷惑ですか?」

 サリーさんは、両膝をつき、両手を差し伸べてこういった。

「ふつつかですが、一生お側にお仕えします。末永く可愛がってください」


 サリーさん、それって嫁入りの言葉に聞こえますよ。

 サリーさんにそういうと、なぜか真っ赤になって俯いてしまった。


 ふと見上げれば、空には月が浮かんでいた。

 それも二個も!!


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