第50話 タンブルの森
デルメンホルスト軍がトロアへとあと1日というあたりまで近づくと、
その現地を訪れたことのある人族は少ない。交易などで多少は行き来があるようだが、その数は決して多くはない。そして今、こうして戦争が起きているのだ、今現在タンブルにいる人族はどういう扱いなのだろうか。
このあたりの街道はタンブルの森林を目視できる程度には近い。タンブル行きの分岐点を過ぎたあたりで野営の準備を始める。すると、森林側から、ちょろちょろとエルフの小隊が現れて露骨にこちらを監視しはじめた。
「敵地が近いだけのことはあるな。警戒を密にしろ。最悪、夜襲をかけてくるかもしれん」
エルフ共が平地で人族に切り込んでくるとまでは思わないが、弓を射かけてくるぐらいの
森からは
「オラアァァ! 待てやコラァ!!!」
エルフは平地では鈍足だ。追手を巻くべく、散り散りに逃げていくが、追いかけるデルメンホルスト軍も鬼の形相である。
「お前たちは、タンブルの森のエルフか?」
尋問は3人別々の場所で行われた。その場で口裏を合わせさせないためである。
「わざわざ軍を相手に弓を射かけてきたのだ、ただで済むと思ってはいないだろうが……。こちらもタンブルにお前らのことを伝えねばならない。果たしてただの野盗なのか、タンブルの手の物なのか。野盗だというならしかるべき処置をしてタンブルへは事後報告、タンブルの手の物だとすれば我々と戦争をする宣戦布告ということで良いのかな?」
野党の処置というのはおよそ穏やかなものではない。かといってタンブルの者だといえば、国の争いにまでなりかねない。いや、特攻をかけてくるような下っ端は、やれと言われたからやりましたぐらいのもんで、国と国の争いの戦端を切ったなんていう責任なんぞ考えもしてないか。わざわざ危険を承知で夜襲に来るような連中である。口はそれなりに堅いだろう。ぺらぺらとタンブルの者ですと答えるとも思えなかった。しばらく尋問は続けられたが、これといった情報は聞き出せないでいた。
そこに他から兵士がやってきて尋問官にそっと耳打ちする。
「ひとり、しゃべったようだ。もうひとりしゃべってくれれば情報を付き合わせできて助かるんだがな。まあ、それはお前でも、もうひとりでもいい。しかし、タンブルに抗議するにしても手土産に首のひとつぐらいは持っていかねばならん。我々としては誰がどっちでもいいんだがね?」
その横ではまな板のような物が設置され、その横ではシャッシャッと斧が研がれ始める。脂汗を流していた
「まってくれ! 話す! 話すから、待ってくれ!」
すでにひとりしゃべったぞ、と聞かされたエルフ達は、3人供自供した。尋問官の言う既に他の者がしゃべった、というのは
エルフの連中は、お粗末なことに釣り野伏せをやろうとしたようである。釣り役の部隊が野営中のデルメンホルスト軍に射掛け、追わせて森に引き込む。そこを待ち伏せしている部隊で挟撃して射掛けて殲滅する――というシナリオである。デルメンホルスト軍は街道の反対側、森から遠い側の平原に野営の陣を張った。森との距離は
エルフ達も人族との戦争なんぞ経験がないものだから、
エルフから聞き出した情報では、やはりトロアは包囲されているらしい。しかし、攻城戦は続いており、後方警戒というか、援軍の足止めがここの部隊の役目なのだという。デルメンホルスト軍の到着は彼らによってトロア包囲軍に伝えられることだろう。その情報だけで包囲を解いて逃げてくれれば楽なのだが。まあ、そうはいくまい。
その夜、最初の襲撃以降はエルフからの直接的な
夜が明けてデルメンホルスト軍は行軍を再開する。エルフ達は森の近くで遠巻きに監視しているだけであった。
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