第51話 挨拶
デルメンホルスト軍が見たところ、トロアは未だ壮健であった。南北の城門の手前には野戦城壁が組まれ、トロアは口と鼻を防がれたかのようである。あたりは夕焼けで赤く染まり、エルフ達は今日の
城壁の傍らには破損した梯子がいくつも転がっている。日が暮れて今日もなんとか凌いだと弛緩していたトロア軍から歓声があがる。夕暮れの中に現れた援軍の旗は輝いて見えたことだろう。デルメンホルスト軍は北門の外に陣取るエルフ野戦砦の東側に
トロアは防戦で手いっぱいなようだ。しかし、野戦砦こそがエルフ軍の要であることは明白で、その砦を追われればエルフは蹴散らせるだろう。攻め手のエルフ軍ではあるが、拠点の砦と、そこへ補給を行っている水軍が生命線のようだ。こちらの軍であの野戦砦を逆に攻め立ててやれば状況は変わるだろう。
「ここで睨みを利かせていれば連中、トロアに手出しできまい。問題はあの野戦砦をどう攻略するかだな」
「野戦砦とはいえ、さすがに正面切って攻城戦では損害は大きいでしょう。いかがなさいます?」
「そうだな……。まずはエルフの奴らに挨拶してみるか?」
トロアに到着したその夜、デルメンホルスト軍の選抜小隊はエルフの野戦砦に向かっていた。
「デルメンホルスト軍、参上、よろしくお願いします、手土産をどうぞってな」
手土産といっても汚物である。詳細は……誰もその部分の詳しいことは聞きたくあるまい。さすがにエルフ共も我々デルメンホルスト軍が到着して警戒していたのだろう。
「そらよっ」
さらに駆け寄り、砦に接近すると、次々と
「
以前、夜襲をかけてきたエルフ達は人族の追撃にあっさりと捕まっていたが、逆に人族の夜襲にエルフは追撃できるかな?
「はっはっはーっ! 追撃のひとつもねえぞ! あいつら鈍亀だな!!」
「ご苦労。エルフ共の様子はどうだ?」
「弓を撃ってくるだけの引きこもりですね。弓が届かない距離なら恐れることは何もない」
「そんな連中がよくも都市を包囲しようなどと考えたものだな」
「街の出入り口の前に野戦砦を構えたのが大きいのでしょう。目と鼻の先にアレを作られるトロアが間抜けだ」
「川はエルフ共が抑えているようだ。水運を使ったのだろうが、それにしても」
「なかなかしっかりした作りでした。どんどん補強しているのかもしれませんね」
「落とせそうか?」
「攻城戦そのものですね。
「行軍が終わったら休む間もなく土木作業か……」
レンズブルクの測量隊はタンブルの森に近づいてきていた。小さな丘の上に旗を立て測量をする。今日はこの丘で野営だな。
先行したデルメンホルスト軍はトロアで戦っているのだろうか? いよいよ戦場は近い。しかし、我々の真の目的、皆既日食の日も差し迫っていた。測量そのものは日食後にも行えるので後回しにすることも可能性として考えなくてはいけない。しかし、そもそも日食を意義のある場所で観測するため、その選定のために測量が必要なのだ。
「ここまでの測量結果はどうだ?」
「そうですねえ。デルメンホルストまではまとまってますよ。その先はまだこれからですね」
「ポイント選定をするには時間がかかるか」
「本当はトロアに逗留してまとめる想定でしたからね」
「トロアの位置を測量するまでは出来るだろうが……。逗留は無理だろうな。トロアがダメなら迂回して西はどうだろう? 例えば……
「移動時間はどのぐらい掛かりますかね?」
「測量しながらだよな? 6日ほどだろうか?」
「サンスに逗留してデータをまとめるのに3日ほどかかりますか」
「日食まで日がないな。そこから移動に使える日数は4日ほどしかないが……。これでいくか」
測量隊の隊長ゲーアハルトは進路を西にとることを決定する。夜が明けると、後続の
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