第42話 包囲作戦
エルフの都市、モルヴァンは深い森の中にある。エルフ達は元来、森を住処としてきた。古代から
エルフの都市は立体感がある。森の生活に適応したエルフは上下移動を苦にしない。エルフ達は木の上に家を作る。地方集落では今でも昔ながらの樹上建築が主流だ。都市となると防衛上の理由で城壁がある。城塞都市の様相であるのだが、人族の都市とは一階の使い方に大きく違いが出る。もっぱら家畜や荷物のために用いられ、店舗などには使われない。店舗や住居は2階以上の高層に作られ、高架の渡り廊下で建物が繋がれる。宙を歩くような都市構造となっていた。
人族の都市と比べれば森に飲み込まれたような、あるいは森と一体化したような都市という雰囲気だろうか。
「ポンティニー攻略の状況はどうだ?」
「はっ。北西部のガティネからの使節によれば、ガティネとポンティニーの中間点となるサンスを攻略できるように兵力と前線基地を整えているとのことです」
「北東部のタンブルからは船でポンティニー東方のトロアを襲撃する準備を整えているとのことです」
「我々モルヴァンからはポンティニー南部のオーセールを抑えるべく、軍備を整えています。交易の中継都市ではありますが、そこまでの規模の都市ではありませんのでモルヴァン軍の総力をもってすれば確実であろうと思われます」
ポンティニーを三方から抑える包囲作戦である。ポンティニーは大きな城塞で攻略は容易ではない。ポンティニーの周辺には3つの衛星都市があり、その外側には3つの大きな
人族は容易に森へは攻めては来れない。森という障害物を突き進むことは難しく、森に籠ればエルフが優位である。人族の究極の手段は森を焼くことだが、森は人族にとっても資源であるから、奪った領土の価値を著しく毀損してはやってられない。
逆に平野部は人族が優位である。エルフは平地での行軍距離で人族に敵わない。人族の機動性に対して平原で決戦なんてしようものなら蹂躙されてしまうだろう。人族の究極の手段は森を焼くことと言ったが、逆にエルフ側が平原を優位な森にすることは難しい。野戦築城によってエルフの戦える地形を作り出すことが平原への進出のための手段となる。そのために必要なものが木材である。
森林から流れる河川を用いて木材を運搬し、適切な位置に野戦陣地を作ることが重要である。森と森との間の平原の狭小部をどう抑えるかがこの包囲作戦の成否を決めるポイントであった。
「ポンティニーの動向は?」
「年明け前ごろから連中の情報経路に変化がありました。暗号方式が変わったとみられ、暗号なのか、撹乱用のダミーの手紙なのかはっきりしないものが大量に流れています。情報封鎖は行えていない状況です」
忌々しい。計画は順調に進んでいるが、このタイミングで敵方の暗号に大きな動きがあったことは不安の種である。これはポンティニー周辺だけの撹乱ではないだろうと思われる。というのも北方の城塞都市ジュゴルからの情報では、北方の人族都市の間でもこの新暗号が飛び交っているという。広域で同じようなことがされているとなれば、これは撹乱のためのダミーなどではなく、解読不能の新暗号ではないか? という疑惑が強まる。
封鎖し、覗き見ていた情報が、突如として掴めなくなった。あざ笑うように隠しもせず堂々と暗号とおぼしき謎の文字列が手紙となって飛び交っている。読めるもんなら読んでみろ、と言わんがばかりだ。
「備蓄を増やしているようです。小競り合いもありましたし、こちらの動きを警戒していくらか備えているようではあります。しかし、本格的な戦争を想定しているとは思えない程度ですので、こちらの目論見は漏洩していないと思われます」
「援軍を出しそうなところはどうだ?」
「北方の
「北方のジュゴルの参戦の意思はどうか?」
「難しいかと。あの場所では下手に参戦すればレンズブルク、シュヴェリーンに挟撃されてしまいます。足止めのための協力をしてくれれば上々といったところでしょう」
ポンティニー包囲作戦は一気呵成に成さねばならない。北方が横槍を入れる前に大勢を決してしまう必要がある。軍備が整うまではいましばらく掛かるが、整い次第決行だ。あの忌々しいポンティニーを陥落させれば、モルヴァン、ガティネ、タンブルをまとめたエルフの大国が登場することになろう。
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