第39話 魔信
魔石の研究を進めていたジークリット君から新たな報告があった。魔石の環に魔力導線をふたつ巻くと、ふたつの導線が接していないにも関わらず魔力が流れる。魔石がもつ不可視の状態Xが魔力と相互変換されるような動きをするようで、魔力 → 魔石の状態X → 魔力といった変換が行われているのだろう。このとき、魔力導線の巻き数が異なると導線を流れる魔力の輝きが変わることが報告された。
「一般に人間から供給された魔力は青白く輝くのですが、魔石のコイルを通じて変換された魔力は緑色になったり、紫色になったりするんです」
ジークリット君のデモに皆が見入っていた。見慣れた青白い魔力の輝きとは異なる色合いに皆の目は釘付けだった。
「魔力の伝達距離は一般には
……しばし考えて疑問を述べる。
「どのぐらい届くのだろうね? もしかすると緑だともっと遠くまで届くとか?」
「伝達距離が長くなる可能性ですか? 確かに検証はしていませんが」
「やってみよう」
研究室にある魔力導線を伸ばし、結んで
次に魔石コイルによる変換で緑色の魔力にして流してみると反対の端でなお魔力が輝いていた。
「もう少し継ぎ足して長くしてくれ」
魔力導線をさらに繋いで長さを稼ぐ。どうも
「この魔石に巻くコイルの巻き数の比がポイントになるのか。もっと巻いたらもっと遠くに届くんじゃないか?」
さらに巻き数を増やした魔石コイルは魔力を黄色に輝かせた。
「
さらに巻く。魔力の色はオレンジ色、赤色となり到達距離は
「ふむ。赤色が限界か。しかし
長距離通信の課題は魔力の減衰であった。かつて中継器、トランスポンダと呼ばれる魔導回路の論文を読んだことがある。この論文の要旨は、送られてくる魔力の波形をそのままに、途中で魔力を継ぎ足して通信距離を伸ばすというものであった。
継ぎ足す魔力は当然ながら供給しなくてはならない。つまり、
しかし、この魔石コイルによる
「ジークリット君、私が過去に読んだ論文で
「長距離通信ですか……?」
ジークリット君は地味な試行錯誤を繰り返して魔石関連では様々な成果を上げてくれているのだが、どうもその応用という部分では想像力に乏しい気がする。しかし、それはこうした場で皆が議論して応用方法を考えている限りは大きな欠点にはなるまい。
魔石コイルによる
今のところは予め用意した文様を光らせるという方式ではあるが、モザイク画のようにたくさんの四角を制御できれば、それこそ伝説に出てくるような絵を表示する魔法の板が実現可能かもしれない。もっとも100×100の大きさのモザイク画となればタイルの数は1万にも及ぶ。1万もの数のタイルの色を制御するなどというのは今の魔法陣の技術ではちょっと考えられないものではあった。
ほどなくして
5本の魔力導線がフラッグを送り、その32通りの組み合わせによって文字を伝える。伝わった情報は魔石コア
魔石周りの技術はジークリット君の研究によるもので、
とはいえ、こうした新技術は面白いもので、皆が興味をもって触ることで実用上の課題が見えてくる。伯爵も噂を聞きつけ視察にやってきては一通り触って「もっと長距離化できたら城とアカデミーの間に通信魔法陣を設置したいものだな」などと言っていた。とりあえず現行品でも良いからレンズブルク城内にも設置して欲しいという依頼が出され、ジークリット君とヘンリック君は伯爵への献上品を作ることとなり、名誉と責任から
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トランスと通信の話でした。磁器コアメモリの時代、本当に職人の手作業でメモリを編んでいたんですよね。そうした時代ではファミコンのカセットほどの容量でもとんでもない大容量に思えたことでしょう。初代ドラゴンクエストが512 kbit = 64 kbyte ≒ 512,000 bit ですからね。なんという大容量なのでしょうか!
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