第33話 ビーズ細工
年が明けて勇者帰還祭が終わると街は平常をとりもどす。帰省していた学生もレンズブルクへと戻ってきていた。アラン研究室も平静を取り戻し、私は暦魔法陣を仕上げにかかる。院生たちも各々の研究に取り掛かっていた。
「アラン先生! 試作品ができました!」
ジークリット式魔石コア
「あの……その名前で決まりなんですか……?」
「技術に自分の名前が残るなんて魔術師冥利に尽きるじゃないか。何が不満なんだ」
8×8に整列された魔石の環と、それを縦横に貫く書き込み線。そして斜めに配された読み取り線。美しい幾何学模様である。入力は7本の信号線からなり、最初の3本のフラッグで縦の位置、次の3本で横の位置、最後のフラッグで書き込む値のプラス・マイナスを指示する。
縦と横の該当の線に、同時に魔力が送られる。プラスの時は左から右、上から下へ。マイナスを書き込む場合にはその逆向きに。二つの線の交点では魔力が臨界量を超え、魔石コアの状態を書き換える。
読み取りに際しては、プラスの値へと書き換えてを行う。値がプラスだった場合は誘導魔力が流れない。値がマイナスからプラスに転じる際には読み取り線に誘導魔力が流れるため、それをもって値がマイナスだったことがわかる。ただし、値がプラスに変わってしまうため、再びマイナスの値を書き戻してやらなくてはならない。
こうした一連の挙動をジークリットは見事に回路を組んで見せた。
挙動確認は地味なものである。該当番号の値を書き込む操作、読み込む操作。そうした動作確認を淡々とこなしていく。見る限り正しく動いているようだ。一連の作業をジークリットは緊張の面持ちで見守っていた。
「素晴らしい。ジークリット君、お手柄だよ。これは君の代表作になるな」
ほっとジークリットが安堵の表情を見せる。
「この魔石コア
「単品の魔石コアで試したところでは1週間はもってますね。それ以上の耐久試験はしていないのですが」
「真面目に耐久試験をやらないといけないな。たくさん魔石コアを作ってどのぐらいが壊れるかを見たいところだが……。そもそも魔石コアは状態を確認しようとした時点で状態が壊れるもんなあ。120個作って1ヶ月ごとに10個ずつチェックするとかでも1年か。どんだけの期間の試験にしたものか」
今後の課題を議論し、実用化と量産化を検討する。とりあえず150個ほど魔石コアを用意して1年分+αでの試験をすることとした。
「よし。じゃあ出かけるとするか」
「へ?」
魔石コア
「拝見しました。ビーズを編んだようなものを作る必要があるということですね」
「そうか、確かにビーズに似ていますもんね」
「素材は魔石とのことでしたが、この魔石ビーズの作り方には何か特殊な工程があったりますか?」
「いえっ……。薄くスライスして孔をあけているだけで、特別なことはなにも」
「ではビーズ細工の職人にやらせてみると良さそうですね。よい副業になると喜ばれると思いますよ」
ビーズの歴史は古い。太古の昔から人は貝殻や石に孔をあけてビーズとして装飾に用いてきた。現代では南方から輸入されるガラス玉のビーズが最先端であるが、高品質なガラス製造技術は南方の極秘技術だ。とはいえ、古代からガラスを作る技術自体は伝わっているので、質を問わなければガラス玉のビーズは近隣の産品が入手可能ではある。装飾用には良く用いられていた。
ビーズは編まれて利用されることが多い。その編み方の技法は古代より工夫されてきたため、素人目にはどんな結び方がされているのか皆目見当がつかないような物であった。
「ジークリット君、職人さんと詳細を詰めてみてくれ。まずはジークリット君の試作品の複製を目指すか。とりあえず5個ぐらい作ってもらって、研究室内でいろいろ使ってみよう」
「はいっ。頑張ります!」
こうして記憶装置の評価と利用法についての研究が始まることとなった。
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博物館の催しでヒスイに孔をあける加工を体験したことがあります。砂を研磨剤にして植物の茎でひたすらぐりぐりやると、そのうち孔が開くという……。ヒスイは硬度が6.5ほどあるので固い部類ですから勾玉のような孔空けは大変だったでしょうね。
石の建造物のようなものでも加工がしやすい砂岩とか石灰岩とかだとまだやれそうな気になれます。現代だと御影石みたいな
このあたりは多くの現代人が石を加工する経験を持たないですし、どうにも実感しにくいところです。貝殻や骨などの加工はそれに比べれば随分と楽な方で、縄文時代に骨角器が多く用いられたのも素材としての利便性からでしょう。作中の魔石は生物の体内に生じるものですから
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