第29話 手紙泥棒
私は冒険者のフェリクス。冒険者家業は常に死と隣り合わせだ。街から街へと旅をするというなら行商人もそうではあるが、行商人と冒険者とでは目的が違う。行商人はモノを売ってなんぼなので、利益になりそうな販路を開拓すべくチャレンジングな旅に出るが、冒険者は旅の依頼があるからこそチャレンジングな冒険をするのである。
ここのところ、レンズブルク周辺では手紙の配達依頼が増えた。妙なのは、配達人の人命を優先せよとのお達しだ。手紙を配達しているという理由で襲われるようなことがあれば、手紙を投げ捨ててでも身を守れというわけである。わざわざ投げ捨てれるようにと2通の手紙を手渡された。片方でいいから届けろ、両方を無事届けれればボーナスが着く、だとよ。
冒険者の仕事は命がかかっているが、その割には安い。食い詰め者が命を掛け金にして金を稼ぐような商売であると揶揄されていたが、まあ実態としても遠からずだ。そんな
ボヤキながらも街道を次の街へと進んでいく。
いっそ、手紙を盗ませるのが目的なんじゃないかとすら思う。登録したての冒険者にでもほいほいと手紙を預けているようだ。盗まれてもいいと言ってるようなものだ。この仕事を続けたければ信用第一だから、手紙の配達を請け負ったら決して開封なんざするわけがない。二度とこの仕事ができなくなってしまうからな。しかし、登録したての冒険者ってのは別だ。登録に大した金がかかるわけでもない。冒険者登録の身分を使い捨てにして手紙の内容を外に売ろうってろくでもない奴も出てくるだろう。
2通を無事届けてボーナスと信用を得るか。それとも襲われたんだ、などと言い訳して1通をどこかに売り払うか。いかにも付け入って悪さしてくださいと言わんがばかりで気に入らねえ。言い訳がたつように仕向けられている。
街道が森にはいってすぐのことだった。
「……何か用か?」
危ない仕事とは思っていたが本当に襲われるとはな……。3人がかりで囲われては分が悪すぎる。
「懐の物を置いていけ……。それほど大事なものでもあるまい?」
くっ。こいつら手紙の依頼がどういう条件で出されているか知ってて襲っていやがるな……? 仕方あるまい……。懐から手紙を取り出すと賊の視線が集まる。
「俺も命の方が大事だからな……」
賊の気が変わらないうちにとんずらだっ! この業界で長くやるなら逃げ足の早さが大事なのだ!
「確かに受け取りました。フェリクス殿。無事2通お持ちいただけるとは。賊に襲われたりはしませんでしたかな?」
「襲われた、襲われた。まったくなんなんだあいつらは。これはそんなにヤバい手紙なのか?」
「ご無事で何よりです。賊の情報をいただければ追加でボーナスをお出ししますよ。賊が手紙を集めて何かしようとしているようですがね。こんなもので配達人が死ぬような大層なものではありませんよ」
無事ボーナスをゲットすることができたが、この仕事は今後あまり関わらないほうが良いかもしれないな……。賊を釣るためにわざとやってるんじゃないのか?またよろしく頼む、とは言われたが、正直ごめんだ。賊の連中もあんな小細工に騙されるとはな。あいつらの先も長くはなさそうだ。
「おいおいおい。出鱈目の暗号もどきの次は白紙の手紙か!? いよいよ舐められてるな!! ちくしょう!!!」
賊のリーダーはイラついていた。ここのところ激増した手紙の配達依頼。それを狙う側の仕事も激増していた。こんな地下組織、そうそう増員できるわけでもなく、ただただ激務のストレスを罵詈雑言で散らしていた。
激務の中で手にした手紙だが、解析班からは文字の使用頻度は概ね均一で、撹乱のための偽装か、あるいは複数枚組み合わせることで何か情報が得られるものかもしれないとのことだ。連中があっさり手紙を手渡すのも2通の手紙を持っているからなのだが、その2通が組となって暗号をなしているのではないか?という疑念が持たれた。さりとて、2通とも
そして今回の白紙の手紙である。忙しい思いをして働かされた挙句、からかわれているだけなんじゃないかと勘ぐってしまう。手紙の質が明らかに変わったのは貴族共の会合から後だ。手紙が狙われている情報が共有されて撹乱のダミーの手紙が大量に出されているのだ、という説がもっともらしく聞こえる。もしや、この大量の撒き餌は、われわれを捕えるためのものではないか――。
ぶるっと身震いする。上は納得しないかもしれないが、いったん手を引くように上申しよう。不気味な姿の見えない敵がこちらを嘲笑っているかのようだった。
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暗号機が暗躍しているようですね。ファンタジー定番の冒険者家業ですが、ろくでもない便利屋家業という気がしますね。
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