第24話 仕事のやり方
建築家バルトロメオ先生の研究室にきていた。多人数での開発のあり方について何かヒントが得られるかもしれないから一度こい、と
「第4街区を作ろうって計画が持ち上がっている。そのための設計案を練っているんだ」
城壁のラフ画や図面がいくつも並んでいた。
「全体の設計案はこいつだ。今の城壁がこうあって、こっちに新たな街区を作ってはどうかって話だな。水に関しては古代のロマリアの水道と下水のシステムを参考にしている。城壁には一定間隔で塔がおかれる。まぁこのあたりはおなじみの風景だ」
バルトロメオは窓の外を指す。城塞都市レンズブルクの住人には城壁と塔というのは見慣れた景色であった。
「全体図だけじゃあ実際の建築はできねえ。それぞれの塔、城壁、これらを担当分けして図面と建造計画をたてる必要がある。おい、ユルゲン、この塔の図面を見せてやれ」
ユルゲンという青年は書類棚へ向かうと紙の束を持ってきた。書類棚はよく整理されており、ひとつひとつの棚にラベルがつけられている。うちもこんな風に整理しないといかんな、などと本題とは違うところで見習わねばと考える。
「この塔の図面はユルゲンが描いたものだ。塔といっても同じものが建ってるわけじゃねえ。それぞれに図面を用意して必要な資材を計算する必要がある。こうした作業は分担でやっている。ひとりじゃとてもじゃないがやってられないからな」
図面を元に資材を手配する。現場で人足を指揮する親方がいる。建築家は親方と共同でことにあたるが、現場で事前計画とは狂いが生じることもあり、その都度計画を見直す。分割された建築物とその統治方法。そしてそれらを接合して一体の城塞都市を作る手腕に、今後の巨大な魔法陣に対する答えがあるように思えた。
バルトロメオ先生はレンズブルクの設計を一人でやっているわけではない。
この方法の利点は、設計が一人の魔術師によって統一的に行えるという点であるが、欠点としては、一人の魔術師を最大効率で動かしたところで、やれる仕事の量は限界があり、魔法陣の規模がある程度になるとただただ開発に時間が掛かりすぎてしまうことである。魔術師の寿命を勘案すれば、魔法陣の大きさには限界があるということだ。それを超えるには、複数人の魔術師で魔法陣を設計しなくてはならない。
バルトロメオ先生の仕事の仕方の視察を終え部屋へと戻る。夕暮れ時はだんだんと冷え込むようになってきた。レンズブルク郊外の農地ではライ麦の
植物学のフリーデリンデ先生によれば、ここ200年ほどで麦の収量は劇的に増え、倍ほどになったのだという。鉄製の農具の普及や、家畜の力を用いて深く耕す
都市の職人が増えるように、魔術師の数も増えれば今以上に巨大な魔法陣を組み上げることができるのだろうか?若い魔術師見習いは、師匠の監督の下で演算用魔法陣のような一般向けに販売される魔法陣の模写をする仕事をして日銭を稼ぎつつ基礎を覚える。しかし魔導回路を描く技術と魔導回路を設計する技能はまた別である。設計をも任せれる魔術師となるととても少ない。魔術師の育成が先なのか?そもそも有用な魔法陣が産業としてやっていけるほどに売れ、魔術師の生活基盤ができないことには魔術師を志望する者など増えやしないのではないか?
夕焼け空を見上げると頭上には半月が輝いている。半月の輝く部分は夕焼けの太陽の方向だ。いつかのアンネ先生の天文学の講座が思い出される。自分を直角とした壮大な直角三角形を思い描いた。この壮大な世界を魔法陣に描き出すにはどれほどの魔術師の手が必要なのか――
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アラン先生、多人数開発について考えるの巻でした。
中世には職人によるギルドが発達したと言います。同業者組合として発足しますが、ギルドのトップは市政への参加を果たし一定の力を持つに至ったようです。しかし、親方・職人・徒弟のような身分制度化していったり、ギルド構成員間での自由競争を排したり、次第に閉塞感の強い保守的な特権団体のような組織となっていきます。
作中、魔術師は振興の職業でまだ組合というものはありません。高等遊民に近い存在です。産業として魔術師ギルドが確立するのはもう少し後でしょうか。
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