第四回

 「それより貴女達。一体何を聞いたのか知ら!」

 級友クラスメイト達にとっては一難去ってまた一難という風であった。晴子は自分達二人を探し回っていた級友達に今はどんな話が広まっているのか聞き出した――朝方、千枝と紗代子が仲睦まじく登校していたと言う話までは把握していた晴子だが千枝をご不浄に連れ出していた間の出来事は聞き及んでいない――。

 すると、あの短き間の刻にも関わらず既に千枝と紗代子がエスという事になって広まっていた。予想していた通りに事が進んでしまった晴子は

 「貴女達直ぐに訂正なさい」

 と冷静に告げるとそれを妙に思った級友の一人が

 「何、違うて言うの」

 と返す。

 「違うも何も千枝さんはエスがなにかも知らないわよ」

 「じゃあ、千枝さんと厳島さんはエスにならないのね。何だア。詰まらないわ」

 と、不満を述べた級友に

 「それは千枝さん次第よ」

 と、晴子が言うと空かさず他の級友が

 「どういう事よ。もしかして、厳島さんの方がフォルトって事なの!」

 と声を上げる。晴子は自らの失言を後悔するが、もう一人の級友が

 「――この間、に来たのって不良の小笠原さんよね」

 と疑問を漏らす。晴子は後悔先に立たずという諺を思い浮かべたが腹を括ってその場の級友達にも事情を明かす作戦を思い立った。

 「仕方ないわね。千枝さん、小笠原さんの事此処に居る人達に明かしても良いかしら」

 と、晴子に問われた千枝は、先程自分だけがお咎め無しになった後ろめたさからそれを了承した。

 「それなら話が早いわ。皆口外無用よ」

 とその場に居る級友達は晴子の傍へと纏った。

 (厳島さんの事は私は聞いてないけど、小笠原さんがこの儘だとフォルトになりそうなのは確実よ。だって千枝さんがエスの事何も知らないんですもの)

 (厳島さんの事何も聞いてないの?)

 (全く)

 (何時知り合ったのかしら)

 とのやり取りに別の級友が提案する。

 「それなら千枝さんに聞けばいいわ」

 と、話が纏まった様子で

 「千枝さんは厳島さんとは何時知り合ったのか知ら」

 と晴子が千枝に問う。

 「小笠原さんから手紙を受け取った日の下校の際だけれど。昇降口よ」

 それが何と関係在るのかと千枝が不思議そうに応えるがそれを聞いた級友達の議論は活発となる。

 (何をして居たのかしら)

 (今月は六月よ。少女小説ならそろそろお姉様と出会う頃よ)

 (三月の入学試験の時かも知れないわ)

 (上級生は試験の時に居ないわ)

 (それもそうね)

 (けれども、二人同時に出会うかしら。そんな展開小説でも無いわ)

 と級友達が小説に見立てて推理していると

 (貴女達、小説の話では無くてよ)

 と晴子が釘を刺す。

 (モチのロンよ)

 (小笠原さんのアプローチは間違いないのね)

 と、我への問い掛けかと晴子が答える。

 (千枝さんから話を聞いた限りでは間違いないわ。でも、千枝さんが気付いてないのよ)

 (それは聞いたわよ)

 と、それは何時しか手紙のやり取りに代わっていて帳面notebookの頁の切れ端が授業中の教室クラスルーム中を幾つも巡っていた。

 (矢張り、厳島さんも千枝さんにアプローチする気よ)

 遂ぞ一人の意見が皆の考えを固めた。しかし、そう成ると新たな問題が生まれる事は千枝以外皆知っていた。

 (それはイケナイわ!)

 (だから千枝さんに説明をしていたら貴女達が私達を探し回って先生に叱られたんじゃないの。いい事。絶対に口外してはならないわよ。小笠原さんと厳島さんに知れたら大変な事だわ)

 と、晴子の言葉に漸く千枝の事情を解った級友達は議論を終えた。

 最後の手紙を書き終えそれが教室中の机を伝わっている頃

 「千枝さんにもう一度説明して置いた方が好いかしら」

 と、晴子が独語ひとりごとを呟いた。

 教師の視ぬ間を付いて行われた議論は長丁場となりそれが終わった頃には放課後であった。晴子が教室のぐるりを見渡すと事情を知った一握りの級友達は今度ばかりは大人しくしており晴子がその方を見ると目配せをする。

 しかし、目的の千枝の姿は無かった。

 「――詳しく説明して置かねばなぬというに。千枝さんたらもううちに帰ったのか知らん。小笠原さんが厳島さんの事を知らなければ何事も起きないのにねエ」

 千枝を見逃した晴子はしまったと自らの失態を悔いたが、未だ確証も無いと言うのにとなってしまった千枝を晴子なりに案じていた。

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