キスの記憶は鮮明に
「私だって成長したのよ」
あーたんは突然切り出した。
「えぇっと」
おろおろする僕。
「どこが成長したででしょう? 怒らないから言ってみてね」
答えのわかりきっているいじわるな質問だ。あーたんは、にやけている。
「えっと胸とか」
僕の顔も真っ赤になってるはずだ。だって恥ずかしいから。
「おませさん」
正直に言ったのに軽くつねられた。
でもあーたんが笑ってくれるからいいんだ。
「僕も背が高くなったよ」
「くやしいけどかっこいい……」
「ん? あーたんどうしたの。声が小さすぎてききとれなかったよ」
「でも成長したのは胸だけじゃないのよ」
「あ…逃げたな」
少し誇らしげに、はいっと渡された紙には【東京大学 合格】と書かれていた。さくら咲くだ。
「受験勉強は?」
「孤児院では予備校にはいかせてもらえないわ。あそこは最低限の生活をする場所だから」
きっとあーたんは孤児院にはいい思い出がないのだろう。暗い顔をしている。
そうだ僕はいつも、そんなあーたんに笑ってほしくて一生懸命声をかけたんだ。
「大丈夫。もう離さないから」
そして後ろからそっと抱きしめた。思っていたよりずっと細くて、それだけで大切に思えた。
そしてくらくらする甘い香り。これはあーたんの香り。それだけであのときの公園のときを思い出す。
あのとき別れることしかできなかった。でも今は違う。
あーたんがいればなにもいらない。
「ちょっと離して?」
嫌だったかな? って不安になったけど
「抱きつくなら前から抱きしめてほしいから」
か細い声で何をいっているのかわからなかったが、あーたんが前からぎゅっと抱きしめてきた。
それが愛おしくて愛おしくて、やっぱりあーたんのことが大好きなんだと再確認した。世界一かわいい女の子だ。
もう二度あーたん僕を離さないための魔法の言葉
「あーたん。僕はあの頃からずっとあーたんが好きだよ。うん、確かに女の子に告白されたこともあった」
あーたんの顔に陰が見えた
「でもどうしてもあーたんと比べちゃう。あーたんなら無言で伝わるな、服のセンスもあーたんのほうがよかったなとか。
なにより、大きくなったあーたんのことを考えると、他の女の子と付き合うなんてできないよ」
あーたんは恥ずかしそうに下を向いている。
「あーたんは僕のこと好き?」
「……す……。うん、好き。大好き。他の女になんて取られたくない!」
よかった。だからね
あーたんは今までの人生で失ったものが多いと思うんだ。それはもう取り返しのつかないことで。でも僕は横にいるよ。失ったもの以上に幸せにするから。
「だから結婚してください」
8年ぶりキスを交わした。
「ありがとう……」
あーたんを泣かせてしまった。でも嬉し涙だっから。
僕は世界一恵まれてるだろう。こんなにかわいいお嫁さんをもらえたから。
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