夫婦になった日のプロローグ
真っ赤な夕焼けはワンピースに見えて
桜があの日の雪のようにはらはらと舞い散るなか、僕は彼女にプロポーズした。
今でもあの唇の感触を覚えている。彼女の涙も、悲しそうな瞳も。最後にお別れが言えなかった後悔も。
今日は高校の卒業式だった。僕の通っていた高校は、女の子が卒業式の日に好きな男の子からネクタイをもらって思い出にするという風習のようなものがあったけど、僕のネクタイはポケットに強引に突っ込んだままだ。
結局、高校3年間で好きな女の子などできなかった。だって僕は今でもあーたんが好きだから。
あーたんのことを思い出すと胸が苦しくなる。きっとものすごくかわいくなっているんだろう。そんなことを考えながら来てしまうのは、あの公園。あーたんの初めてのキスをくれた公園。この公園にはあーたんとの思い出が染み付いている。
その公園には先客が来ていた。真っ黒なロングヘア、細いしなやかな体の線。なによりも真っ赤な夕焼けをバックに立っている様は、あの日彼女にプレゼントしたワンピースを思い出させた。
彼女は振り振り返って僕の横をなに気にしないように通り過ぎて
そして顔を見た瞬間、ありとあらゆる時を刻む物音が静止した。聞こえるのは、僕の胸をどくどくと叩く心臓の音だけ。
「あーたん?」
夢ならば覚めないでほしい。だってこれは僕が何度も夢にまで見た光景だから。
「あーたん!」
それでも振り返ってくれない。でもここで諦める訳にはいかない。
「あーたん……。泣いてるの?」
「そんなことない!」
やって振り向いてくれた。僕の想像よりもずっとキレイでかわいらしくて。
「待ってた……。ずっと……ずっと待ってた」
走りながら僕の胸に飛び込んできた。
温かい、優しい甘い香り。
パチっと目が覚めた。やっぱり夢だったことに落ち込む……ってここはあーたんの家。当然夢オチなんかじゃない。なぜここにいるのかは謎だ。
でも僕にかけられていた毛布の香りは、さっき飛び込んできたあーたんの香りだったから。
「あーたん。とにかくかわいくなってたなぁ。
とりあえずあーたんを探さないと。あの感じ、絶対に僕のこと覚えている……覚えてくれていないかなぁ…」
不意に扉の開く音がした。
そしてそこに彼女がいた
あーたんは、それはもうとにかくかわいくなっていて、まるでおとぎ話に出てきそうな女の子だった。真っ赤なワンピースを着ていた。僕のあげたワンピースはきっとサイズが合わなくなってるんだろう。すらっとした女の子らしい体つき。
僕は強く抱きついた。だってあーたんを2度と離したくないから。。
「ふぇぇぇ。な……な…によ?」
言葉はいらない。だってあーたんもきっと僕と同じ気持ちだから。
あのときとは違う。でもあーたんが顔を真っ赤にしてるのはあの時と同じだった。
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