私のだんな様

とても恥ずかしいことに私の初恋は物心ついたとき。隣に住んでいる同い年の男の子だった。

 私には仲のいい友達なんていなくて、外でわいわい遊んでいるみんなの輪の中に入っていけなくて、いつも1人で本を読んでいた。そうやって孤独を紛らわせていれば必ずその男の子は私に声をかけてくれる。最初は恥ずかしくて無視をしていたけど、そのたびに悲しそうな顔をして、それでも毎日話しかけてくれる。そんな彼が好きだった。


 10歳のとき。パパとママがいなくなった。事故だと聞いたけど全然現実感がなく、信じられなかったけどお葬式のときに遺影を見たら涙が出てきた。

 寒い外で、彼がくれた1番お気に入りの真っ赤なワンピースを着て、外でぼうっと家を眺めていたら彼は優しい声で名前を呼んでくれる。

「あーたん……」

「なんであなたが泣いてるの?」

 彼は泣き虫。男の子のくせに、いつも私より早く泣いてしまう。でもそんな彼が好きだった。

 何度かやり取りをして、吸い込まれるようにキスをした。今にしてみれば随分ませていた。でも彼に腰を抱かれた感触を覚えている。

 あぁ男の子なんだなんだなって思った記憶が今でもよみがえる。


夢を見た彼女


 夢を見た。黄金の記憶。私と彼は手をつないで歩いている。最後に会ったときよりずっと背の高い彼。でも私の大好きだった優しい笑顔は変わっていない。そのうち彼の隣にいるのは私ではないことに気がつく。これもいつもどおり。だってもう10年も会ってないんだから。いつになったこの悲しく切ない夢が終わるのだろう……。


 小学、中学を県外の孤児院で過ごし、私は人生で1番輝いていた、彼のいたこの街まで帰ってきた。彼に会いたくて、夢中で走って私の家も彼の家も取り壊されたのか、そこには大きなマンションが建っていた。それだけで私の体から力が抜けて地面に座り込んでしまう。あのときは彼が迎えに来てくれた。


 でも今は……。

 

 ひどく疲れた。どこをどう歩いたのかわからないまま、パパとママの残してくれたお金で買ったマンションに帰ってきた。

 私はあのときから何回泣いたのだろう。目を覚ましたら着の身着のまま、ソファーで寝ていた。


彼を探し、当然見つからないけど。彼の身長はどれくらいだろう。きっと私の\身長なんか追いぬかしているだろう。私も背の高いほうが望ましい。背伸びしてキスするほうがとときめく。


 高校の入学式。

 もう私にはなんの期待もない。彼に会うことなく、他に好きな人ができるだけでもなく、ただゆったりと日々時間の流れるままに、流されていくだろう。高校は女子校を選んだ。男の子は無意識の中で彼と比較して惨めな気持ちになるから。彼はどこにいるのだろう。元気でいるのだろうか? 私のことはもう忘れてしまっただろうか? 他の女の子と歩いていてもいい。もう私には気がなくてもいい。ただもう1度だけ名前を、あの優しい声で、優しく優しく「あーたん」って呼んでほしい……。

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