売買
ユースケと報酬を分配したおれ達は、ギルドを去ろうとしたが、エリスに呼び止められた。
「アルさん、そのアイテムバッグですが……」
くっ、有耶無耶にしようとしたが、ダメだったか。
なんと答えればいいだろうか。
やっぱりここは家に代々伝わる品って事で押し通すとするか。
「あぁ、これはな……」
「売る気はありませんか?」
え? 売る?
この素材袋を?
「はい。アイテムバッグは常に需要があります。主に迷宮で発見される物なので、北の迷宮都市コサイムに行かないと手に入りません。いえ、コサイムでも高値で取引されるので中々手に入りません。ですから、この西方都市ラースでは、更に高値で取引される事になります」
高値で取引される……か。
実際この袋の元値はかなり安いのだが。
「この街は高ランクの冒険者の方はいませんが、その分比較的安全な街なので、王都と街道も繋がっていますし商業が盛んです。商人の方ならぜひ欲しがるはずです。ユースケさんにも声をかけさせて頂いたのですが、断られてしまって……。もちろんこれは強制ではないので、アルさんの意思にお任せしますが、確実に高値で売れるでしょう」
んー。
どうするかなぁ。
実際金は欲しい。
これを売ってもまた作ればいいだけの話だしな。
それに失敗作だし。別に惜しくはない。
だがなぁ、うーん。
「実際いくらぐらいになるんだ? それと、なんでエリスがそこまで売る事を勧めてくるんだ?」
なんだかグイグイきてるからな。
なにか裏があるんじゃないか?
「はい、何故かと言うと、お売りになられる場合、冒険者ギルド名義で大規模オークションに出品する事になるからです。そしてその売り上げの一割が手数料として、冒険者ギルドに入ります。その中から更に一割が私のボーナスになる訳です。もちろんギルドを通さずに売る事も出来ますが、その場合はアルさん自身が持つコネクションを頼るしかありません。特別なコネクションを持たない場合、商人に売りに行っても買い叩かれるでしょう。それよりは、おそらくオークションに出品してギルドに手数料を払った方が高額になるかと。そして金額ですが、おそらく最低でも、大金貨百枚以上になるはずです」
大金貨百枚以上だと!?
かなり魅力的な金額だ!
それに、なるほど。
エリスはボーナスが入るからここまで売る事を勧めてくるのか。
仮に大金貨百枚だったとしたら、百分の一でも大金貨一枚だからな。
それにこれでまだ最低価格だ。
金額が上がれば上がるだけ、エリスの取り分も多くなる。
どうやら悪い話じゃないようだし、ここは乗ってみるか。
「そ、そうか。そこまで言うなら仕方ない。このアイテムバッグは売る事にしよう」
「いいんですか!?」
エリスの目が輝いているように見える。
嬉しそうで何よりだ。
「あぁ、実はもう一つアイテムバッグを持っているからな。これは売っても大丈夫だ」
「二つもアイテムバッグを……」
「おい、アル……お前……」
「ユースケ、詮索は無しだろう?」
「う、分かってるよ。」
これでおれも大金持ちか。
夢に一歩近づいたな。
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