第43話 気持ちが大事


 次の日の午後、ラキルとジローと馬車に乗って、また北ギルドに来た。


 朝食のあとジャンに頼んで、僕達の昼食を肉と野菜と卵の、栄養満点のサンドイッチにして貰った。それを外で食べるから、と言って包んで貰ったのと、僕が作った回復水でゲンが入れてくれた、お茶を詰めた水筒を持って来た。

 北ギルドで馬車を降り、ラキルがアランに夕方迎えに来て欲しい、と言うと

「ラキル様……出来たらこれも、お持ち下さいませんか」

 と、アランは御者席で使っていたクッションを差し出した。……そうか、アランも気にしてたんだ……。

 ラキルとアランは一瞬見つめ合い、それから笑って別れた。


 ギルドのカウンターで身分証を出し、名前を知らない男のことを尋ねると、職員の人は「ああ、一昨日のひったくりですね」と分かってくれた。

 サンドイッチと水筒とクッションを預けて、僕達の名前は知らせないように頼んだ。

「その男はいつまでここに居ますか?」

「まだ決まってませんが、あと四、五日でしょう」

 僕達はその間、毎日食べ物を差し入れることに決めていた。

 

 それから三日間、毎日北ギルドに差し入れに行った。力がつくように肉料理や、果物も。鉱山の重労働を耐えられるように。ついでに僕は回復薬も納品。

 そして四日目。今日が最後の差し入れだ。

 明日、男は鉱山に送られる。カイトとチルも、同じ馬車で行くらしい。

 だから今日は、カイトとチルの分もジャンに頼んで作って貰った。最初、ラキルには呆れた顔をされたけど。

「タロは甘いなあ……でも、それでタロの気が済むなら、それが一番だな!」

 って言ってくれた。


 この四日間、僕達のお昼ご飯は差し入れにしてしまっていたので、毎日、北ギルドの食堂で食べていた。それも今日で最後だ。

「う~ん」

 何を食べようか悩む……。

「おや……君たちは」

「……あ!ヨセフさん!」

 カイトとチルの被害者、商人のヨセフさんだ。

「やあ、やっぱりそうか!アイツら君達が捕まえてくれたそうだな。ありがとう」

 ヨセフさん、元気そう!良かった!それから僕達は一緒にご飯を食べた。

 ヨセフさんの話によると、盗まれた布は売られてしまったけれど……カイトとチルはお金を持っていたので、ヨセフさんにも仕入れ代金分が戻って来たそうだ。

「……なんだか、一区切りがついた気持ちだよ。もう少し商売が出来そうだ。また君達と旅をする事もあるかもしれん。その時は宜しくな!」

 ヨセフさんは笑って、お礼の気持ちだ、と食事代を払ってくれた。


 北ギルドを出て、お城を正面に見ながら大通りを歩く。大通りは良く整備されているし、信号も電柱も電線もなく『街をキレイに』とかの看板もない。街路樹や花壇の手入れをしている人、ゴミや馬糞を片付けている人が居て、美しく保たれている。王都は暑いと聞いていたけれど、この季節はまだそうでもないようだ。僕達の足取りは軽い。

「ヨセフさん、元気になって良かったな」

「うん。ラキルが二人を見つけたお陰だね」

「はは……、俺はタロのお陰だ」

「何が?」

「……俺も、なんか気持ちの整理がついた感じかな……。よし!久しぶりに仕事するかな!」

「うん!」

 僕じゃなくてゲンのお陰だけど……ラキルが元気になって嬉しい。後でゲンにお礼を言わなきゃ!

 北ギルドから少し歩いたし、僕はまだ行った事がなかったので、南ギルドに行ってみる事になった。


 馬車を拾って向かう道中……

「なんでアランは『クッション』だったのかなぁ?」

 ちょっとだけ気になってたんだ。

「あー……実は昔……アランが地下牢に入ったことがあって」

「……えぇ!」

「いや、アランは悪くないぞ?」

 アランがまだ若く冒険者をしていた頃、酒場で他の冒険者とケンカになってしまい、相手が武器を構えたから応戦せざるをえなかったんだって……。

 冒険者はみんな武器を持っているけど、街なかで武器を人に向けたり、攻撃魔法を使えばもちろん犯罪だ。もし冒険者同士が街で戦えば、周囲に甚大な被害が及んでしまう。

 その時は誰かがすぐに通報したのか、大事おおごとになる前に騎士が駆けつけ、そしてアランも捕まった。

「牢屋の中は小さなベッドがあるだけだそうだ。布団もない。ケツが痛くなる、って言ってたよ」

「なるほど……それでクッション……それからアランはどうなったの?」

「周りの証言で、先に武器を構えたのが相手側だって分かって、一日で出て来れたんだけどな……」

 ゲンが凄く怒ったそうだ。

 ラートハイム夫妻は騎士団の偉い人だ。そのラートハイム家に仕える執事の息子が騎士団に迷惑をかけるなど、言語道断!!───て感じだったらしい。

「ま、親父がアランをかばって収まったけどな」

「ゲンが怒るって、想像つかないよ」

「だよな~」

 その事が関係しているかは分からないけど、その後しばらくしてアランは冒険者を辞めて、ラートハイム家で働くようになったそうだ。

 

 馬車が南ギルドに着いた。

 この時間帯、ギルドは閑散としている。僕はラキルとゆっくり依頼書を見て回った。

 護衛、採取、魔物退治……王都でも他の町とあまり変わりなさそう。あとはメイド募集とか、家庭教師とか……このへんは貴族が出してるのかな?───あ、回復師ランクC以上……パーティーメンバーの募集か。僕はラキルと一緒じゃないとやらないけど!

「お……タロ、これどうだ?」

 ラキルが依頼書を読み上げた。


〈──討伐 対象・クラーケン

 募集人数・6~8名(残り2) ランクC以上 報酬・金貨六枚を等分 ──漁師組合──〉


「クラーケン?」

「海の魔物。ヤリーカの親玉だ。ヤリーカってのは足が沢山あってヌルヌルしてて……前に漁村で聞いたことがあったろ?」

 あ、イカかタコだ。

「それの頭、丸い?三角?」

「三角」

 イカ決定。

「僕でも大丈夫かな……」

「タロはもうCランクだぞ。それに回復師の仕事は治療だ。……よし決定!」

 ラキルは依頼書をピッと剥がすとカウンターに向かった。


「ラキルさんBランク、タロウさんCランク……問題ありませんね。ではこちらの依頼書を持って、漁村の漁師組合へ向かって下さい」

 ギルドの職員さんに場所を聞いて、さっそく漁村に向かう事にした。

 ……海に行くなら、ジロー連れて来てあげたかったな……。

 と思ったら漁師組合は南門を出てすぐの所にあった。王都の外壁沿いでそんなに大きくない木造の建物。木の看板に『漁師組合』って書いてある。

「すみませーん」

「はいよ、何だい?」

「ギルドの依頼を受けて来ました」

「おお、それはありがとう」

 出て来たのは予想に反して小柄なおじいさんだった。ラキルが依頼書を出し、おじいさんが確認する。

「えーと、ラキルにタロウだね。ワシはここの組合長のウオジだ。『ウオじぃ』と呼ばれてる。宜しくな」

「宜しくお願いします」

「君たちで八人だよ。決行は明日。詳しい話は明日の朝、皆が集まった時にしよう」

「分かりました」

 朝、桟橋に集合。海が荒れた場合は延期だが、明日は大丈夫だろう、と聞いただけで漁師組合を後にした。


 その日の夕食前、テーブルを整えるゲンを手伝わせて貰った。もちろんお礼を言いたかったからだ。

「ゲンの言う通りにしたら、ラキル元気になったよ!ありがとう!」

「おや、私は知っている事をお教えしただけですが……お役に立てたなら、良うございました」

 ゲンはいつも通り微笑んで、いつも通り静かに仕事をする。

「ラキル様もタロウ様も、本当にご立派です……アランにも見習って欲しいものです」

「アランは立派だよ!」

 アランはお世話してる馬達に凄く好かれてる。アランは風魔法であっという間に庭の木々や芝生を整える。アランはいっぱい遊んでくれる……全部、ジローから聞いた話。

 それとアランがクッションを差し入れた事も話した。

「……そうですか。ありがとうございます」

 その後のゲンは、いつもより少ぅし口角が上がってた気がする。



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