第41話 カジノ



 次の日、僕は馬のお世話を教わりながら、アランに聞いた。

「……昨日の、あの人はどうなるの?」

「あの男が罰金を払えるようには見えないですから……鉱山送りでしょう」

 犯罪者は、罰金を払えなければ鉱山での労働を科せられる。鉱山の仕事はかなりキツく辛い。朝から晩まで、休みなく粗末な食事で働かされるらしい。

「どれくらい?」

「そうですね……誰も怪我をしたりしていませんから、三ヶ月から半年……しかし、襲ったのが貴族の様でしたから、もう少し長いかも知れません」

 もし、貴族に怪我を負わせていたら三年以上は確実だったって。

「半獣人であれば、力も体力もありますから、三年くらい持つでしょう。そうでない場合……」

「……ない場合?」

「生きて出てこれるかどうか」

 怖い。


 今日は、昨日見て回らなかった南西のエリア、『歓楽街』に連れて行って貰う予定。

 そこは高級店が建ち並び貴族達が多く、冒険者の格好では変に目立ってしまうため、ミーナにに仕上げて貰った。

 ラキルのサラサラ金髪はピシッとオールバックに撫でつけられ、シンプルなシャツの襟元には細いリボン。足元はテカテカした革靴で剣もミーバックもなし!───凄く大人っぽいし、カッコイイ。

 僕はだいぶ伸びて来ていた髪を切って貰ってスッキリ。……そしてやっぱりヒラヒラの付いたシャツ。でも大きなリボンは無かったからホッと一安心……と思ったら、最後に被せられた帽子に付いてた。

 ミーナは並んだ僕とラキルを見て、とても満足そうに頷いた。


「行ってらっしゃいませ。ジロー様の事はお任せ下さい」

「ワフ~ン」『いってらっしゃ~い』

 ゲンとミーナとジローに見送られ、アランの操る馬車で出発した。

 ジローはお留守番。高級エリアではジローが入れる店は無いだろうし……セラの言葉も一応、気にしてる。


 高級住宅地を抜け、お城前の広場を過ぎ、また緑が多いお屋敷街に入る。途中で道を折れて高級エリアに入り、劇場の前で馬車を降りた。

 確かに、綺麗な格好をした貴族っぽい人がいっぱい。僕たちは地味な方。

「……剣と袋がないと落ち着かない」

「うん、僕も」

 服装に合わせて、ミーバックは置いてきた……っていうか没収された。ポケットにはハンカチとギルドの手帳だけ。お金はラキルが持ってる。

 ミーバックを手にしてから色んな物を持ち歩けたので、久しぶりの手ブラはなんだか不安になる。これは、ミーさんに『ミーポケット』をお願いするべきかも?


「劇場は公演時間が決まってるから、今日は無理だな」

「うん、この辺を見て歩くだけでいいよ!」

 道は石畳で並ぶお店はガラス張りが多く、お店のドアや看板もそれぞれ凝った装飾がされている。道行く人もお洒落で、眺めて歩くだけでドキドキする。

 そういえば……他の街ではガラス窓ってあまり見なかったな。ラキルに聞いてみると

「ガラスは王都ここから西のデルータで作られてるんだ。輸送が大変だから、遠くの街じゃ高くなる」って。

 そっか。馬車で運ぶんだもんな。小さな物は運べても、大きなガラスとなると割らずに運ぶのは難しいんだろう。

 ショーウインドウの中には、ドレスや帽子、人形にお菓子───どれも高そう。ここで買い物したら、たぶん、僕の全財産なんてすぐ無くなりそうだ。


「どこか入ってみるか?」

「え!?……いや、いいよ!僕に買えるモノなさそう」

「はは、まぁそうだな……じゃ飯でも食うか?」

「……ううん、きっと凄く高いんでしょ?」

「そうだな。それに、ジャンが作る飯が一番旨いしな」

「だったら勿体ないよ!」

「だよなぁ……よし、じゃあカジノでも行くか!」

 カジノ!エリスさんがあんまり良く思ってない様子だったけど……正直、興味ある!


 そしてやって来たカジノ入り口。

 大きなドアを開けると、広いロビーだった。黒い絨毯と太く白い柱。奥にまたドアがあって、楽しげな音楽が漏れ聞こえて来る。受付カウンターと豪華なソファーがいくつか、それと大きなガラスケースの中に、景品だろうか、色んな品々が並んでる。上品で高級そうではあるけど、思ってたより派手じゃない。……緊張する!

 数人の武器を持った人……用心棒?の視線の中、ラキルは堂々とカウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。身分証の提示をお願い致します」

 カウンターにはにこやかで凄く美人なお姉さん……胸元の露出度が高い。

 ラキルはポケットから、ギルドの手帳と財布を出した。僕も真似する。

「ありがとうございます。本日は如何ほど両替なさいますか?」

「これで二人分」

「畏まりました」

 ラキルが財布から銀貨を一枚出し───あれ?銀貨にしてはピカピカだな。

 お姉さんがカラフルなコインを二つのトレーに載せて差し出し、微笑む。

「ごゆっくりお楽しみ下さい」

「よし、タロ、行こう」

 ラキルがスタスタと奥のドアに向かって行くので、慌てて──でもそう見えないように──付いて行く。


 ドアを開くと───

「うわぁ……!」思わず声が出た。

 そこはロビーと違って、明るく華やかな色で溢れ、賑やかな音楽が鳴り響いていた。真っ赤な絨毯が敷き詰められ、大きなシャンデリアがキラキラ眩しい。

 僕たちの居る場所から、左右に丸く回廊が続き、フロアは階段を数段降りたところに広がっている。

 フロアの中央には、大きく透明な円筒があり、中でカラフルなボールがたくさん舞っている。回りには緑や青のテーブルが散らばっていて、カードゲームをしているみたい。

「あー、やっぱり気分が盛り上がるなあ、ココは……とりあえずソコに座ろう」

 回廊には所々にミニテーブルと椅子が置いてあり、僕たちはフロアを眺められるその一つに落ち着いた。


「凄いね!な、なんか興奮する!」

「だよな。俺も久しぶりに来たけど……うん、興奮するな!」

「ラキルは何度も来た事あるの?」

「……まあ、な。一時は常連だったな」

「へー!やっぱりラキルは凄いなぁ」

「……」

 あ。ラキルの目が泳いだ。

 そこに蝶ネクタイのウエイターさんが来て、ラキルが飲み物を買い、カジノの説明をしてくれた。

「まず入り口で両替」

 ラキルは入り口の綺麗なお姉さんから受け取ったカラフルなコインをテーブルに置いた。ジャラジャラ。

「これで金貨十枚分だ」

 え!金貨十枚!?

「そ、そんなに両替したの!?」

「タロ、落ち着け」

 ───カジノに入る為には、一人につき最低で金貨五枚、両替しなければいけないらしい。でも、出る時にまた両替して貰える。ただし、出る時の両替、換金ではレートが変わって、一割ほど引いた額が戻される。

 つまり今すぐこのコインを換金しても、金貨九枚と少ししか戻って来ないようだ。

 カジノでゲームをするにはこのコインしか使えないけど、飲食にはコインも現金も使える。コインは預けておく事も出来る。

「───さっき、ラキルが出したお金は、銀貨じゃなかったの?」

「ああ、タロは見た事なかったか……コレだ、白金貨」

「……うん、初めて見た。金貨より高いお金があったんだね……」

 白金貨は一枚で金貨十枚分。一般的にはそんなに使う事がないから、見る機会がなかったようだ。

「二階は酒場とレストランだ。金持ちとココで大金を稼いだ奴しか行けない値段だ」

 確か、珍しいお酒があって若い女の子がたくさん居るところ。

「ラキルは入った事あるの?」

「あるけど……俺は普通の酒場の方が好きだな」

 あ、また目が泳いだ。

「このフロアなら飲み物はタダだ!」

「あれ、さっきお金払ってたよね?」

「あれはチップだよ。銅貨か小銅貨を渡せばいい」

 チップは『気持ち』で、値段が決まってる訳ではなく、王都にしかない習慣らしい。

 それからコインを高い順に並べてくれた。色別で数字も書いてあるから、大丈夫そう。

 飲み物も無くなって……

「さて、じゃあやるか!……タロは初めてだから、ビンゴがいいんじゃないか?」

「ビンゴ?数字を揃えるやつ?」

「おお、知ってるのか……あの真ん中にあるのがそうだ」

 ビンゴはフロアの中央にあって凄く目立つ、ボールが舞っているアレだった。


 フロアに降りると、皆真剣な顔でテーブルにかじり付いている。

「あああ!」「よぉし!」「来い、来い!」

 熱気がすごい……ちょっと怖い。

 その間を縫うようにビンゴの台へ。

 まず、係の人からコインでビンゴカードを買う。うん、僕が知ってるビンゴカードと一緒だ。カードは安いのから高いのまで数種類あって、当たった時の倍率が違うらしい。僕とラキルは一番安いのを三枚づつ買った。


 カランカラン!と係の人が鐘を鳴らして「締め切ります……では!ビンゴ、スタート!」

 近くに立っていた露出度高めの綺麗なお姉さん二人が、ボールが入った透明な円筒に手を差し入れると、たくさんの色とりどりのボールが円筒の中を激しく舞い始めた。



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