第27話 旅支度
年が明け、村も平常に戻った。
師匠がラキルの両親に出してくれた手紙もそろそろ届いただろう、ということで、僕達の出発もそろそろだ。
ミーバックがタダで(若干の罪悪感と引き換えに)手に入ったので、貯まったお金で旅の準備を整える事にした。
ミーさんのお店で着替えのシャツとズボン。雑貨屋さんでタオルと石鹸と大きめの水筒。ちなみに水筒は竹製だ。いままで見た事ないけど、どこかに生えてるんだろうな。
それから……武器屋さん。解体用のナイフを買わなきゃ、って思ってたんだ。
「こんにちは……」
なんか武器って響きにビクビクしながら店に入った。そしたら……。
「あれ!タロウ!」
「ジョア?」
熊と戦ってた勇敢な若者、ジョアだ。
「タロウ、武器も使うのか?ウチは防具は置いてないぞ?」
「あ、違うんだ。解体用のナイフを……。ジョアは何してるの?」
「僕はバイトだよ」
ジョアにナイフを選んで貰った。解体にも使い易く、料理にも使えて、いざと言うときには護身にも使える。両刃で刃の厚さが違う大きめのダガーだ。
金貨三枚半の品だったけど、ジョアが店主に掛け合ってくれて金貨二枚半にしてくれた。「お金は持ってるから大丈夫」って言ったんだけど、店主のおじさんも「ジョアが世話になったから」と言ってくれたので、甘える事にした。
ジョアは、ナーラの街で革製品を作っている父親の後を継ぐ為に、今は冒険者をやっているんだって。
「実際に経験してみないと、本当に役立つものは作れないだろ? で、何度も戦闘してみて分かったんだ。防具には、武器との相性があるって」
片手剣と両手剣では戦い方が違う。武器によって動きが違うんだから、防具も武器によって変わるはずだ。全部の武器を習得し試してみるのは無理なので、せめて武器屋で働いて知識を仕入れている、と。
「これから防具屋さんも見てみようかと思ってるんだけど」
アドバイスを貰おうと思って聞いてみると
「タロウは回復師なんだから、前に出て戦っちゃ駄目だよ……本来は」
と言われた。
「でも、靴だけは作った方がいい。歩くにも戦うにも逃げるにも、一番大事だ。売ってるヤツは駄目。腕のいい職人に、ぴったりのを作って貰うべき」
ジョアはナーラの街のお父さんに手紙を送ってあるから、是非そこで作って貰ってくれ、と言うので、そうする事にした。
ジョアと店主にお礼を言い、深々とお辞儀をして武器屋を後にした。
さて……あとは何がいるだろう?
ジロー用のお皿は、今家で使わせて貰ってるのを持って行くとして……迷子札、いるかな?ジローはお利口だから大丈夫だとは思うけど……一応?
僕は旅行なんてした事がないから、洗面具と着替えしか思いつかない。この前の時は何でもラキルが持ってくれてたし……。ラキルに聞こう。
「うん、十分だな。食器と鍋とテントは俺が持ってるし。……迷子札はいらないと思うぞ……ああ、そうだ。ギルドの証明書」
「証明書?」
Dランクになると、他の街でも依頼を受けられる様になるんだって。「この者はカシワ村ギルドで冒険者登録をし、Dランクである事を証明する」って内容の書類だそう。証明書がないと、他の街で依頼を受ける事が出来ない。冒険者の身分証って事かな。確かにバッチだけなら盗んだり偽造したり出来ちゃうしな。
僕は早速ギルドに向かった。
「はい、これね。無くさないように」
「……無くした場合は、どうしたら?」
リリルさんは丁寧に説明してくれた。
一つ目。その街のギルドで冒険者登録をし直す。……当然、Eランクからやり直すことになる。
二つ目。登録をしたギルドに手紙を出して証明書を送って貰う。ただし、手紙を出してから証明書が届くまで何日かかるか分からないし、その間その街で仕事が出来ないと大変困る事になる。魔物を狩った際の魔石やお金になる部位も、ギルドで買い取って貰えなくなる。ギルドの回復施設も使えない。
そこで現実的に冒険者が取る手段は、まず登録をし直してから手紙を出すこと。証明書が届いたらやり直した方は破棄して貰う。でも届くまでは預けてあるお金も引き出せないし、Eランクで受けられる仕事は報酬も少ないから、やっぱり困る。
……なるほど、ギルドって冒険者にとってとても大事なんだな。
ちなみに旅先の街で証明書を出せば、その街でも登録した事になるから、ギルドランクもちゃんと上がるって。
「街を移動する時は証明書を貰うのを忘れずに!そして無くさない様に!」
「はい」
よし。旅の準備は出来た!
……準備は出来たけど、旅立ちまではまだ少し時間がかかった。
リリルさんは「暫く留守にするなら、回復薬を多めに納品して行って欲しいのだけど……」って言うし、それは僕も思ってた事だからちょっと頑張って納品したんだけど、もしかすると……リリルさんはジローと会えなくなるのが寂しかったのもあるかも。
ラキルは冒険者達に頼りにされていたみたいで、断り切れない仕事がいくつか入ってしまった。
師匠は一見いつも通り、のほほん、としてたけど……きっと一番、僕とラキルの事を心配していた。
「ラキルが居れば、タロウは大丈夫じゃ。タロウが居れば、ラキルも大丈夫じゃ」
……って言いながら、僕に毎日、回復と攻撃魔法のおさらいをさせた。
でも、ついに旅立ちの日はやって来て。
王都への旅の計画から、すでに三ヶ月近く経っていた。
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