第28話 新たな冒険の始まり
ナーラまでは乗り合い馬車の護衛。馬車の出発する村の入り口まで、師匠が見送りに来てくれた。
「気をつけて行くんじゃぞ。……ジロー、二人を宜しくな」
「ワン!」『任せて!』
「じいちゃん、行ってくる」
「行って来ま〜す!」
僕達は元気よく、出発した。
馬車で一緒になったのは、カシワ村の商人のおじさんとその家族だ。奥さんと娘さんが二人。
「娘達が『街に行ってみたい』とうるさくて。商売のついでに連れて行くんですがね、いやはや……一体いくら使わされるんだか」
おじさんはそう言いながらも嬉しそうだ。商人は家を空ける事が多いから、家族と一緒の時間は貴重なのかも。
ジローは娘さん達にナデナデされて、こちらも嬉しそう。ジローはホント、女の人が好きだよね……。
御者の隣に座っているラキルが馬車を止めた。
「チープドラゴンだ。……タロ、やってみるか?」
「えっ、僕!? ……うん、やってみる」
ラキルと一緒に馬車を降り、馬車の前に出る。チープドラゴンはカシワ村の辺りによく出るので何度が見ているけど、倒すのは初めてだ。
「チープドラゴンは、攻撃する時に必ず立ち上がる。その瞬間に喉元を狙うんだ」
ラキルがピィッと指笛を吹くと、チープドラゴンがこちらに気付いて向かって来た。四つ足で向かって来る姿はワニのようだけど、巨体の割にスピードがある。
「落ち着いて、ちゃんと狙え」
僕は指先に魔力を貯めて頷く。ラキルが剣を抜いて側に居てくれるから、落ち着いていられた。
チープドラゴンが僕のすぐ側まで来て立ち上がった。今だ。
シュッ! ───ドサッ。
僕の魔法は一瞬でチープドラゴンの頭を撥ね飛ばした。
「よし!やった!」
ラキルとハイタッチ。
娘さん達に「すごい」「カッコいい」と褒められて、恥ずかしかったけど、これはかなり……いい気分だ。
その後もう一匹チープドラゴンと、ヤウルフも出て来て二人でやっつけた。
そして前に来た時と同じように、川にかかる橋を渡って休憩になった。僕とラキルはチープドラゴンを解体して肉を焼き、みんなに振る舞った。……若い女の子が豪快に肉にかぶり付くのを見て、ちょっと複雑な気持ちになったけど。
ジョアが選んでくれたナイフのお陰か、解体も上手く出来た。
皮は商人のおじさんに買い取って貰い、魔石は持っておく事にした。残りの肉は干し肉にする。塩を塗り込んで馬車の天井から釣り下げ、風魔法を送りながら馬車に揺られていると、ナーラの街に着いた。
前回と同じ宿に泊まる手続きをしてからギルドに向かった。
カウンターでバッチを見せて証明書を提出した。あれ、証明書は返してくれないのかな……? ラキルに聞くと
「今度この街を出る時に、ここのギルドの証明書を貰うんだよ。今貰ってもいいけど、無くしたら困るだろ?」
なるほど。
そしてカシワ村よりも大きなギルドを観察。ここのギルドでは、カウンターが三つに区切られている。一番広いのが『冒険者受付』真ん中が『依頼受付』端の狭いところが『預り金・手紙』って書いてある。手紙も、ギルドから出すんだ。知らなかった。やっぱり字が読めると色々と分かるな。
ラキルが依頼の張り紙を見て「う〜ん」って唸ってる。
「どうしたの?」
「……討伐依頼だ。何で残ってるのかと思ったら……」
討伐依頼って言うのは「何処どこに出る何々の魔物を倒して欲しい」って依頼で、強い魔物ほど報酬も高く、冒険者にとっては実力を示す絶好の機会でもある。だから人気もあって、張り出されたらすぐに決まってしまうのが普通だ。依頼書が残ってる、って事は誰もやりたがらないんだ。
「……そんなに強い魔物なの?」
「いや……それが分からないらしい。まさか新種……だが、Aランクの居るパーティーなら喜びそうな話だ。たまたまAランクが居ないのか、それとも……」
その時「あっ!?お前!!」
大きな声に振り向くと、半獣人の男の人が「やっぱり!」と言いながら僕達の方にやって来た。ラキルの知り合い?
でも男の人は僕の目の前に来て、
「あん時はありがとな、坊主!」
……誰?
「ああ、覚えてないか。数ヶ月前、ここで娘を助けて貰った」
思い出した。エルフの里に向かう前……ここに初めて来た時、血だらけの女の子をおぶって飛び込んで来た人。
「お前のお陰で、娘は助かった。本当に危ないところだったんだ。次の日お前を探したんだが……おっと、すまん、俺はザックだ」
僕はタロウと名乗り、ラキルとジローを紹介した。
「とにかく礼をしたい。とりあえず家に来ないか?晩飯を食いながら話そう。ウチの女房の料理はなかなかだぞ」
ジローも一緒に行っていいか聞くと「もちろんだ!」と笑ってジローの頭を撫でた。僕達は遠慮なくご馳走になる事にして、ザックさんに連れられ、辻馬車に乗った。
ザックさんは半獣人だからかも知れないけど、どことなくドーンさんに似てる。ドーンさんを一回り小さくして、優しい雰囲気にした感じ。僕とラキルに「
「そう言えば……そうか!タロウって、あのタロウか!?」
僕の噂はナーラの冒険者達にも広まっていたようだ。その噂はだいぶ大袈裟になっているから、なるべく広めないで欲しい、とお願いした。ザックは少し考えて、「なら噂を訂正しておいてやる」と言ってくれた。
ザックの家は街の外れの、小さな家が密集する住宅街にあった。
奥さんと娘さんは突然押し掛けてしまった僕達にびっくりしながらも、嫌な顔ひとつしなかった。そしてザックが事情を話すと何度もお礼を言ってくれて「じゃ、腕によりをかけなくちゃね!」と二人でキッチンに消えた。
奥さんは純粋人のようだ。あの時、血だらけだった娘さんはつまりハーフだけど、半獣人に見えた。名前をネリと言い、父親と同じく冒険者だそうだ。息子さんも居るけどもう結婚して独立していて、ギルドの職員をしてるって。
……あの時、ザックとネリは「得体の知れない魔物」に襲われた、と言う。
「姿を見てないんだ。前を歩いてたネリが、突然、切り裂かれた。全身を、一度にだ。おそらく風魔法だろうが」
ザックは辺りを見回したが何も見えなかった。だが、魔物の気配は感じた。ネリを抱いて一目散に逃げ、持っていた回復薬も全て使い果たして、ギルドに飛び込んだ……。
「それ、もしかして……誰も受けない討伐依頼か?」
「……そうだ。挑戦した奴はたくさん居る。だが未だに倒せていない」
そこにネリがワインとコップ、前菜を運んで来たので、ザックは話を一旦止めた。被害にあったネリには聞かせたくないのだろう。
それからどんどん、テーブルに乗り切らないほど料理が運ばれて来た。どれもこれも見るからに美味しそうで、実際、ほっぺが落ちるほど美味しかった。ジローの前にも肉、野菜、スープ、果物、水と五つも皿が並んだ。
「さあ、どんどん、食べてね!ウチの人がたくさん食べるから、食材だけは山ほどあるんだから!」
「そうよ!遠慮してると全部お父さんに食べられちゃうわよ!」
ザックの奥さんとネリは、ザックと同じ様にざっくばらんで、笑顔の絶えない人達だった。
ザックとラキルは気が合ったのか、ワインを酌み交わして笑い合ってる。ラキルはザックに泊まっている宿を教えて「時間があれば訪ねてくれ」と言っていた。
僕は料理が美味しくて、奥さんに作り方を教わった。
賑やかで楽しくて、つい遅くまでお邪魔してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます