第34話 忠告

 


 次の日は巫女姉妹の家で朝食の後、里へ下りた。昼前には森の前に商人の馬車が集まるからだ。僕達は王都へ行く馬車を探さないといけない。

 もし乗せてくれる馬車がいなければもう一泊させて貰う予定。キラさんとララさんはきっと、ジローにもう一泊して欲しいんだろうな。ジローと巫女姉妹と一緒に森を出る。

 運良く(双子にとっては運悪く)王都に行く馬車は見つかった。夕方前には出発するらしい。キラさんとララさんは、あからさまにガッカリした顔だった。


「……昼食を食べて行け」

 長老の言葉に甘えて、ご馳走になる。

 セラが運んで来てくれたのは、肉や野菜がたくさん乗ったご飯。そこに熱々のスープをかけてくれた。肉の味付けはコッテリ……でもスープはさっぱり……噛むと肉の旨味とスープの出汁と米の甘味が混然一体となって……至福。

 昨日はセラに会っていなかったので挨拶をすると

「タロウ、王都へ行くのですか?」

「はい!」

「……そうですか」

 それだけ言うと、セラは部屋を出て行ってしまった。

「……相変わらず愛想のない奴だな」

 ラキルもセラには無愛想だよ……かなり。

「タロウ、褒美の件は考えたか?」

 長老に聞かれた。昨日も考えたんだけど、今、欲しいのは……図鑑。でも「図鑑買って!」なんて、なんか子供っぽくて恥ずかしい。それに長老は色々できるみたいだから、お金で買えるモノを頼むのは勿体ない気もする。だから

「今じゃなくて……もしこの先、僕が困った時に、力を貸して下さい」

 と言った。長老は少し考えて、

「……お主、頭が良いな。うむ……良いだろう」って言ってくれた。

 頭が良いってどういう意味だろう?と思ったけど、これで会う度にご褒美の事を聞かれなくて済む。うん、頭いいかな?

「ところで……ライラプス様。その、御召しになられているモノは、何ですかな?」

『ジローバックだよ!』

「……ジローバック……?」

 まずい。神獣様におつかいさせてるなんて知られたら……!

 僕は「ジローの事をあがめている女性がいてプレゼントしてくれたモノで、ジローがとても気に入っている」と説明した。

「ほう……。その者はエルフか?」

「いえ、純粋人だと思います」

「そうか……。純粋人にもライラプス様の神々しさが分かる者が居るのだな」

『いつもお菓子くれるんだ』

「ほう、定期的に貢ぎ物を」

『あとブラシでシュッシュッて、気持ちいいんだよ!』

「……なんと献身的な。純粋人にもその様な女性が……」

 ……長老にはジローの言葉がどうやって聞こえてるのか知りたくなってきた。

 それから僕はあれからあった事を、ラキルが街の噂話をした。長老は外に出ないのに、噂話はほとんど耳に入っている、と言った。精霊が運んでくる……とか。

 そして時間になり、一階で待っていた巫女姉妹と長老の家を出た。

 すると、セラが出て来て「お送りします」と言ってくれた。

 巫女姉妹も「私達がお送りする」と譲らないし、小舟に六人は乗れないので、結局、舟二艘で森まで行く事になった。ジローはもちろん巫女姉妹と同じ舟だ。


 水路を下りながら、セラが言った。

「タロウ、王都では、ライラプス様をあまり連れ歩かないようお願いします」

「何でですか?」

「ライラプス様は魔力が高く、気高い。王都のように人の多い場所では、気付く者も居るでしょう」

「ジローが、神獣だって事にか?」

「……神獣が人と一緒に街に居るとは、誰も思いません。ですがに魔力があれば、興味を持たれます」

「はい、気を付けます」

「……特に王族には気を付けて」

 その後は黙ったままだった。

 森の入り口に着き、みんなにお別れをして、ラキルの後に続こうとすると……セラが僕の腕をつかみ、もう一度言った。

「王と王族に気を付けて」

 ちょっとびっくりしてセラの顔を見たけど、セラはクルリと向きを変え、行ってしまった。

 同時に「タロ、行くぞ!」ラキルに呼ばれて僕はエルフの里を後にした。


 森を歩きながら、考えた。

 大事な事だから二回言いました……ってことだよな……やっぱり。

 ジローは神獣様だから、狙われたりするのかな……?王様に?いや、う~ん。

 

「バウ!」『あぶない!』

 え?と思うと同時に何かにつまずいた。あっ、と思った瞬間、ボフッと……ジローにかぶさっていた。ジローが受け止めてくれたみたい。

「タロ、大丈夫か?」

「うん、ごめん……ボーっとしてた。ジローありがと!」

「ワゥ〜」『もう〜』

 ───考え過ぎだ。意味がわからないんだから、考えてもしょうがないや。それに王様とか王族に会う事なんてないもんな、きっと。

 ちょうど、森の出口が見えた。



「こっちがタロウ、回復師だ。こっちはジロー」

「宜しくお願いします」

「ワウ!」『お願いします!』

「宜しくな。ワシはヨセフだ」

 商人で馬車の持ち主、ヨセフさんは、落ち着きのあるおじいさん。

「オレはカイト、こっちはチル」

「宜しくね、私は魔法担当。二人ともB-よ」

 カイトとチルは明るく気の良さそうな、人懐こい笑顔の人達。

 これが王都まで一緒のメンバーだ。


「えーと、王都までのスケジュールを確認するわね」

 チルが説明してくれた。

 今日は王都のあるエントラ地方の手前で野営になる。日が落ちるまでになるべくエントラの交差点まで近づいておきたいとの事。

 エントラの交差点て言うのは、南の王都方面、北東のナーラの街、カシワ村方面に向かう街道と、東のポロック地方、西のデルータ砂漠に至る街道が交差するところ。

 その先にタガヤ村という農村があって、そこが明日の目的地。その先が王都だ。


 カイトもチルも話好きで、色んな話をしてくれた。僕が初めて王都に行くと言うと、「スリに気を付けろ」とか「近づいてくる女に騙されるな」とか……。ちょっと嬉しかった。これって、田舎の人が『東京は怖いところだから気を付けろ』って言うのと同じ感じだろうな、って。僕は東京生まれ東京育ちだけど、大丈夫……とは言えない。

 あと、ジローが白くて大きい、珍しい犬だから、誘拐に気を付けろ、とも言われた。

 セラにも言われたし……後で、ジローにちゃんと言って聞かせないと……。「綺麗な女の人に美味しい物を貰っても、付いて行っちゃダメ」って。

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