第22話 特訓!
今日もジローとボールで遊ぶ……じゃなくて、ボールの訓練。
「あ〜〜疲れた!」
『まだ遊ぶ!』
「また明日。そろそろ夕飯の準備しなきゃ」
このところ、よく運動してるからお腹が減るんだ。
ジローと遊んだ後はちゃんと九枚の板に向かってボールを投げて、全部の板に当てられたら訓練終了。
「よし!」
ここ数日は一発で全部に当てられるようになった。
そしてついに、師匠から攻撃魔法の訓練の許可が出た!
お天気も良く、救護室の仕事もない日に、師匠とジローと一緒に村を出た。人や建物がない場所じゃないと危ないからと、近くの林に向かう。
「魔法には色々な属性があるが、人によって得意、不得意があるのじゃ。タロウは回復が出来るから、ワシと同じく『光』が使えると思うぞ。『光』は便利じゃしの」
「便利って?」
「魔物には属性のあるヤツがおるのは知っとるな。火属性の魔物に火は効かん。水属性の魔物に水は効かん。風も土も同じじゃ。じゃが、光属性の魔物はおらんからの。全ての魔物に有効なんじゃ」
うん!それがいい!
「ただ、弱点もある。光は真っ直ぐしか進まん」
ああ、確かに。あれ? でも……だったらボールの訓練はちょっと違うような。
「使い所が限られるんじゃよ……矢のように弧を描く事はない。その代わり、弱くとも雨も風も関係なく使えるがの」
レーザー光線のイメージ?
「どの魔法にも長短がある……ふむ、この辺りで良いか」
まず、師匠がお手本を見せてくれた。
近くの切り株に向かって指二本を出し、指先が光ったと思った瞬間シュッと光が飛んで、切り株に切れ込みが入った。
「一番簡単なヤツじゃ。ワシの言う通りにやれば出来る」
まず指先に魔力を集めて光を出す。鋭く、早く、飛ばすと同時に切り離す。
「……切り離す」
指先の光は消えてしまった。
「ボールを的に当てる練習をしたじゃろ。光をボールだと思え。ボールが手から離れる瞬間を思い出して切り離すんじゃ」
じゃあ試しに……手のひらに光の玉を出して、ボールを投げるようにしてみる。振りかぶって───切り離す。
光が切り株に当たり、消えた。……でも切り株に傷はついてない。
「うむ。切り離し方は出来とる」
「でも……」
「傷を付けられんのは、タロウが出した光が『優しい光』だからじゃよ。それは生活に必要な光じゃ」
「師匠に、最初に教わった」
「うむ。そのイメージが強いんじゃの。……攻撃魔法は『攻撃』するんじゃよ。相手を、傷つけ、殺すイメージじゃ」
相手を傷付け、殺す……。
「怖いかの?」
「……ちょっとだけ」
「それで良いぞ。さすがワシが見込んだ回復師じゃ」
「え……」
「回復は傷を癒す。傷付けるのとは逆の行為じゃろ。回復師として優秀な者なら、躊躇して当然なんじゃ」
じゃあ、回復師に攻撃魔法は無理?
「でも師匠は出来る……」
「守るため、と思うんじゃ。大事な者を守る為に攻撃する、と」
そうか。じゃあ……この切り株が、ジローを襲う魔物だと思って……もう一度。光の玉を振りかぶり……あっち行け!!
ズン、と低い音がして、切り株に丸い穴があいた。
「あっ!やった!」
「ふむ。……じゃが、投げる動作は邪魔じゃの」
そっか。最初に師匠がやったヤツを思い出して……指先を向けるだけで……えいっ!
プシュッ
……小さい穴はあいた。
「……それはそれで良いが、鋭さがないのう。そうじゃな、ラキルが戦ってる所をイメージしたらどうじゃ」
ラキルの、剣。魔物の首をスパッと切り裂く所が浮かんだ。
指先に光を出し、ラキルの剣捌きをイメージ───スパッと!
ズバッ!
「やった!」
切り株は真っ二つに裂けた。
「ほうほう、飲み込みが早いの。上出来、上出来」
次は、木の枝を落とす訓練。
師匠のお手本では、切られた枝が地面に落ちるまでに、三等分にされてたけど。
徐々に高い所の枝を落として行く。遠い場所に攻撃を当てるのは、思ったほど難しくなかった。光は真っ直ぐ進むから、手前に目標を定めれば良いだけだ。落ちて来る枝を狙って連続で魔法を打つのが、難しい。でも師匠は「なかなか筋がいい」って言ってくれた。
休憩を挟みながら、ひたすら練習。真面目に練習。
「……そろそろ、手頃な魔物でもおらんかの……む?」
「あっ!?ジロー!」
……ジローはその辺を走り回ってるなー、って思ってたら……
『いっぱい取れた!』
そこには魔物の死体の山が……。
「ジロー、これ全部、ジローが倒したの!?」
『うん!』
「ふーむ。どうやって持って帰ろうかのう」
……師匠、そこなの?
『えらい?』
「う、うーん……偉いって言うか……凄いね……」
『ふふん!』
「フォンマウスが二匹、チッタが二匹、スーアルとモガーか……モガーを良く見つけたのう!」
フォンマウスは多分、このネズミの大きいやつ。鋭い三本爪だ。するとチッタって言うのはコレか。なんて言うか……蛇とミミズを合わせた様な……気持ち悪い見た目。でもコレ、市場の屋台で売ってたな……。……食べたかも……。スーアルって、やっぱり鳥だったんだ。食べた時、鶏肉っぽいって思ったんだ。モガーって言うのは、うん、もぐらだな。手がやたら大きくて、爪も鋭くデカイ。
「師匠、コレどうしよう?」
「……フォンマウスの肉は良い出汁が出る。チッタの肉は柔らかくて旨い。皮も使える。スーアルも旨い。モガーは固くて旨くないが爪は売れる」
「その心は?」
「捨てて行くのは惜しいのう」
うーん、でもどうやって……。
『ボク、アレ持ってくるね!』
ジローは凄いスピードで村の方に走って行った。
「ちょ、ジロー!大丈夫ー!?」
「誰か呼びに行ったのかの?」
「なんか持って来るって……」
「大丈夫じゃろ。とりあえず解体しようかの」
師匠は懐からナイフを出して僕に渡した。
「僕、出来ないと思うけど……」
「何事も練習じゃ。ワシの言う通りにやってみんか」
師匠の指示通りにナイフを入れていくと、けっこう出来た。師匠って、教えるのが天才的に上手い気がする。キレイに解体出来ると嬉しい。
チッタを触るのはちょっと嫌だったけど……。
「タロウ、待て、魔物じゃ」
「?」
「後ろじゃよ」
振り向いたけど何も見えない。だけど、二十メートルくらい先の藪がガサガサッと動いた。
「フォンマウスじゃな。魔法で倒してみなさい」
師匠はそう言うと、藪の手前に向けて魔法を放った。藪からネズミが顔を出した……向かって来た!!
「落ち着いて、ちゃんと狙うんじゃ」
そんな、急に!来る!怖い!
僕は怖くて慌てて、魔法を続けて打ち出した。ネズミは最初の一撃で、僕の五、六メートル先で倒れた。
「……た、倒した」
「まだまだじゃのう」
と、師匠は笑っていた。
僕が頑張って解体していると、街道からガラガラ音がしてきた。さらに……
「ジローちゃーん!待ってー!」
この声は……リリルさん。
街道に出て見ると、ジローがリヤカーを口にくわえて走って来る。その後ろからリリルさんが追いかけて来る……。
ジローは僕の前で止まってリヤカーを下ろして『おまたせ!』と言った。
「ジロー、勝手に持って来ちゃったの?」
『かして!って言ったよ!』
「……そっか。……ありがと!」
リリルさんも到着。
「はあ、はあ……。ジローちゃん、凄い力持ちね!はぁ……リヤカー引いて、あんなスピードで……」
「ごめんなさい、リリルさん」
「どうしたの?何事?」
えーと……。
「リリル、すまんのう。タロウに攻撃魔法を教えてたんじゃ。実戦訓練じゃが……思ったより魔物がおっての」
「まあ!本当!……タロウ頑張ってるわね!」
「ワン!ワン!」『ボクだよ、ボク!』
「ふふ、ジローもさすが、お利口さんね!」
「ワフ」『えへ』
「うむ。流石はジローじゃ。これで残さず持って帰れるの」
「肉以外は買い取って貰いたいが」
「魔石とチッタの皮、モガーの爪ですね。かしこまりました」
「お主も肉を少し持って行くかの?」
「まあ、宜しいんですか!?」
「こうしてリヤカーを引かせてる訳じゃしな」
解体した魔物をリヤカーに乗せて、リリルさんが引いてくれて、僕が押して村に帰った。
次の野外訓練から、ジローはお留守番になった。
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