第19話 回復薬


 次の日の朝、カシワ村に行く乗り合い馬車で、無事村に帰った。

 今回も僕とラキルは馬車の護衛として同乗し、馬車代が浮いた。道中では何度か魔物に会ったけど、ラキルが一人で楽々と倒してくれた。……戦ってるラキルは本当にカッコいい。やっぱりちょっと、剣で戦うのにも憧れる……。

『タローもやれば?』

 ん?考えてる事がジローにバレたかな。

「んー、多分……無理だと思う……」

『なんで〜?』

「だって、やった事ないよ」

『だからやるんでしょ?』

 そっか……そうだよね。やってみなきゃ始まらないよね!

「ありがと、ジロー」

「あー、ごほん」

 師匠につつかれて顔を上げると、一緒の馬車に乗っていた人達がみんな僕を見てた。……人前でジローと喋ったらダメだね。


 カシワ村に着くと、なんだかホッとした。ほんの数日だけど、帰って来たー!って安心感。……帰る家があるって、ありがたい事なんだな、と思った。

 家に着きお風呂に入って、洗濯をしながら思いついた。エルフの里で、風の魔石を使って舟を動かしてた。アレを応用したら、洗濯機が出来ないかな!?……複雑な水流をつくるのは難しいか………?問題は密閉出来る箱を作れるか、かな……。よし、要研究!ノートに書いておこう。

 洗濯物を洗濯袋に入れて、しっかり口を持って……風魔法、GO!

 ……これも、温風にしたいなぁ。火魔法と一緒に……ダメダメ、火事確実!師匠に聞こう。

「師匠! 風魔法を、暖かい風にしたいんですけど!」

 いきなり詰め寄って聞いた僕にちょっと面食らったみたいだけど、すぐにニッコリして「うむ、タロウは勉強熱心じゃのう」と言って、教えてくれた。

「まず、熱のみを出す練習じゃ」

 師匠が手のひらを出して「触ってみろ」と言うので、僕の手のひらを重ねてみると、少し熱い。次に「少し離してみなさい」と言われ十五センチくらい、離す。

あつっ!」

「ホッホ、まだまだ熱くする事も出来る。これも魔力の量を間違えれば、危険じゃ、と言う事じゃ」

 ……気をつけよう。

 それから自分で熱さを確かめながら魔力の量を調整したりして、暫し練習。

「安定して来たなら、そのまま風魔法を使うんじゃ」

 すると……あ!あったかい!ドライヤーみたいだ。出来た!

 水魔法と合わせればお湯が出せるようになるし、光魔法と合わせれば暖房になり、火の攻撃魔法と合わせると攻撃が強力になる、と教わった。

「だが、くれぐれも教わっていない魔法は使うでないぞ。魔法は便利じゃが、危険でもあるからの」

「はい、師匠!」

 さっそく洗濯物を乾かそう!


 乾いた洗濯物を畳んでしまって、洗濯袋も畳もうとした時……また思いついてしまった。洗濯袋をベッドの敷き布団と掛け布団の間に入れて……温風魔法! 布団乾燥機だ。これでダニもイチコロ!お布団フカフカ!魔法、楽しい!!

「ねえジロー、僕、攻撃魔法もカッコいいんじゃないかと思うんだ」

『うん、いいね』

「でも剣も捨てがたいんだけど……」

『うん』

「どっちがいいと思う?」

『うん』

「両方出来たらカッコいいよな〜!……でも僕、ラキルみたいに筋肉ないし……」

『……』

「血とか、苦手だし……やっぱり戦士向きじゃないかも。ね、ジロー」

「zzz……」

 寝ちゃった……お休み。僕も日記を書いてからフカフカの布団に潜った。


「師匠、ヒール草ってどこにあるんですか?」

 次の日。ラキルは仕事に行ってしまったので、今日は回復薬を作ってみよう、と思っている。

「そうか。ヒール草は何処にでも生えておるが……とりあえずギルドに行ってみなさい」

 今日はラキルが居ないから、村の外には行っちゃダメ。師匠は一緒に行ってやりたいが、ちょっと腰が痛くて……ギルドに行って、瓶を買い、ヒール草がないか聞いてみろ、と。

 僕はジローを連れてギルドに向かった。


「こんにちは、リリルさん」

「こんにちは、タロウ!……今日はジローちゃんは一緒?」

「はい、外に……」

「まあ!入って貰ってちょうだい!」

 ジローを呼ぶとすかさず、ジローに駆け寄るリリルさん。

「会いたかったわ〜、ジローちゃん!」

 ジローに抱きついて頬擦り。カウンターの中に居る他のギルド職員の人達が、やれやれ、とか、ゴメンなさいねぇ、って顔で僕を見てくる……。

「ワフ!」『いい匂い!』

「なんだか毛並みも良くなって……あら、ゴメンなさい、タロウ。今日のご用は?」

 いいんですよ……僕はジローのついでで……。

 気を取り直し、回復薬を作りたいんだけど、と言った。

「まあ……!ありがとう!助かるわ!」

「でも、ヒール草がなくて……」

「大丈夫よ、ちゃんとストックしてあるわよ」

 リリルさんがカウンターの中に声を掛けると、ギルドの人が木箱を持って来てカウンターに置いた。中を覗くと、黄緑色の、芝を長ーくした様な草が一杯入ってる。

「好きなだけ持って行ってね。瓶は、何本?」

「ヒール草は、いくらですか?」

「草はタダよ。外に行った冒険者が、ついでに摘んで来るの」

 冒険者は、ギルドで回復薬を銅貨三枚で買い、使ったら空瓶を返しに来る。瓶を返すと、一瓶につき小銅貨一枚を返して貰えるそうだ。その時、ほとんどの冒険者はヒール草を置いていく。

 冒険者にとって回復薬は無くてはならないもので、回復師が回復薬をギルドに納めても大した収入にならない事も、冒険者は知っている。だからせめて、外に出てヒール草を見つければ摘み取り、回復師に渡してくれ、という暗黙のルールになってるみたい。

「この箱の草で、瓶何本分?」

「百本以上は出来るわね」

 百本だと……瓶代が銀貨五枚。納品すると金貨二枚、か。

「……でも、持って帰れないや」

「ええ!? 本当に百本、作ってくれるの!? だったら送ってくわよ!」

 リリルさんは「ちょっと行って来る」と職員に声をかけると、外に出てリヤカーを持って来て、ヒール草の入った木箱と、瓶が入った木箱をリヤカーに乗せた。瓶は思ってたよりもずいぶん小さかった。高さ十センチくらいの細い瓶だ。

 そしてジローを先頭に、リリルさんがリヤカーを引き僕が押して、賑わう市場の真ん中をずんずんと進み……家まで運んでくれた。

「先生、ありがとうございます!宜しくお願いします」

「……うむ」

「タロウ、瓶代が銀貨五枚よ。……はい、確かに。リヤカー、置いていくわね。ジローちゃん、またね」

 リリルさんが慌ただしく去った後、師匠が溜め息をついた。

「タロウや……まあ……、頑張りなさい」

 僕は師匠の指示通りに、まずお風呂場の桶で草をよく洗い(一度では洗いきれなかった)、よく水を切ってから家にある一番大きい鍋に入れ(三分の一も入らなかった)、ピッチャーに水を入れて回復水を作っては鍋に入れ(鍋一杯にするのにピッチャー五杯)、三~四十分ほどぐつぐつ煮出し、水分が半分くらいになったら、しながら別の鍋に移す(普通の大きさの鍋二つ)。後は、冷めたら瓶に小分けにするだけ!

 だけど……ここまで二時間以上。そして、どう見ても、小さい瓶に分ける作業が一番面倒そうだぞ……。

 けど、師匠が回復薬の味見をして「合格じゃ」と言ってくれたので嬉しくなった。

 お昼休憩を挟み───

 師匠に回復薬の入った鍋を魔法で冷して貰い、ガラスで出来た細い管を、鍋に入れては瓶に移す……を延々と繰り返して……さらに一本一本、コルクでキュッと栓をして……やっと出来た!回復薬百本!

「やったあー!」

「ほ、よく頑張ったの……じゃが……」

 そう。ヒール草はまだ山のように……。


 とりあえず、出来た回復薬を木箱に入れ、草が入ってた空の木箱と一緒にリヤカーに乗せて、ギルドに向かった。


「うそ……もう、出来たの!?」

 リリルさんは回復薬を一本開けて少し手のひらに出し、ペロッと舐めた。

「うん……上物だわ!タロウと先生で作ったの?」

「いえ、師匠に教えて貰いながらだけど、僕が作りました」

「凄いのね、タロウ!ありがとう!」

 そして瓶の数を数えて

「ちょうど百本、確かに。ではこちらが報酬の金貨二枚になります。ここにサインしてね」

 僕はノートを出して師匠の書いた字を真似て、サインした。

「これで沢山の冒険者が助かるのよ。本当にありがとう、タロウ」

 リリルさんは僕に頭を下げた。

「いえ!そんな!……あの、ヒール草がまだ沢山あるんで……瓶がまだあったら……」

 リリルさんが目を丸くした。そして僕を抱きしめた。




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