第17話 お仕事と報酬
双子がジローとの別れを惜しむ間、ちょっと外に出てみた。
「……カメラがあればなぁ」
「カメラとはなんですか?」
うわ!……セラさん。いつの間に。
「おはようございます……えっと、カメラって言うのは……」
一瞬で風景とかを記録して紙に写すもの、って説明したけど……。
「タロウの国には珍しい魔法がありますね」
ああ、憶喪失の設定なのに。
「あっ、そうだ!……セラさんて、聖獣と契約してるんですか?」
「……ええ」
「その……聖獣、見せて貰えたりとか……あ、無理ですよね!聖獣ですもんね!」
「タロウは会っていますよ。あの時は小さくなっていましたが……。呼びましょうか」
「いいんですか!?」
セラがヒュイッと指笛を吹くと、そこに……犬が来た。
「あ、この子……村で一緒だった……?」
「フェンリルです」
「へー、フェンリル、宜しくね」
頭を撫でてやる。
「……。フェンリル、元の姿に」
突然、フェンリルが馬ぐらいの大きさになった!ええ!?
「『フェンリル』は『聖なる狼』と言う意味です。……フェンリル、ありがとう。帰っていいですよ」
フェンリルは消えた……大きいまま。色々聞きたい事はあるけど……今はいいや。
「ありがとう、セラさん!」
セラが僕のお願いを聞いてくれた事が嬉しかったんだ。
「……いえ。では」
セラはフイッと長老の家の中に入ってしまったけど。
「タロウよ、ライラプス様を助けて貰った礼として、何か授けたいのだか……何が良いか」
長老に聞かれて、僕は何もいらない、って言ったんだけど……エルフの長としてそうはいかない、と押し問答になってしまったので考える。
「タロウ、物でなくとも良いと思うぞ。長老は色々な魔法も使えるんじゃ。伊達に長老ではないからの」
師匠に言われて更に悩む。魔法って言われても。色々って言われても……。あっ!長老が出来る事!
「僕も、ジローと話せるようになりたい」
「……うーむ。それは……」
「ダメですか?」
「それは、ワシの能力ではなく、ライラプス様の能力だからな……。歴代の長老は、神獣と話せる能力を神獣から授かるのだ」
じゃあ……ジローに頼めば、いいのかな……?
「タロウよ、そなたはライラプス様の声を聞けるのではないのか?……そうでなければ、どうやって契約を交わせたのだ」
うーん。そもそも契約した、なんて思ってなかったし……どう言ったら説明出来るのかな。
「……何となく、気持ちは分かるんだけど」
そう、何となく分かる……と思う。『嬉しい』とか『悲しい』とか『お腹が減った』とか『散歩に行きたい』とか。でもそれって、動物を飼ってる人ならみんな分かる程度のことだよな……。
結局、長老の『ご褒美』は今度来る時までに考えておく事にして貰った。
「ではな。褒美の件、思いついたら来なさい」
「はい、また来ます!」
「タロウ様、ライラプス様をお願い致します」
「ライラプス様……お達者で」
長老と双子姉妹と別れ、来た時と同じようにセラに里の入り口まで送って貰う。ラキルはセラと全然喋らない。そんなに嫌いなのかな……?確かに正反対のタイプだけど。
「では私はこれで。ライラプス様、叔父上、失礼致します」
セラに手を振り、森へ踏み出す。数歩進んで振り返ると、もうエルフの里は見えなくなっていた。
「さあて、タロ、仕事だ!」
「仕事?」
「ビオフ草だよ……ほら、コレだ」
ラキルが摘んで見せてくれたのは青い葉っぱが何枚かついた、二十センチ位の草。これを探せばいいのか。
とは言っても……森の中は色んな植物があるし、パッと見ただけでは判らない。この森の中を歩くだけでも大変だし。でも、ラキルの為に頑張りたいところ。
「ウ!」
ジローが『ここ!』って言ってる気がして行ってみると、あった!そっか、ジローは鼻がいいもんな!
ジローは次々とビオフ草を発見してくれる。でも僕が追いつかないので、見かねた師匠も手伝ってくれた。
森を出てカバンいっぱいのビオフ草を見せると、ラキルが驚いた。
「……タロ、採取の才能があるな」
「ううん、才能があるのはジローだよ!」
「なるほど……。あー、俺も聖獣と契約したいな!」
「鼻がいいだけなら普通の犬でいいじゃろ」
……まあ、確かに。
エルフの森を出ると、昨日よりも商人の馬車がたくさんいた。師匠が乗せてくれる馬車を探しに行き、僕とラキルはちょっと早いけど、昼食の準備をする。
ラキルは森でキノコも採っていたようだ。干し肉でダシを取って、キノコ鍋だ!……でも、見たことのないキノコばかりなんだけど?
「……ラキル、毒キノコとか、ない?大丈夫?」
「大丈夫だ!……まあ、万が一あったとしてもビオフ草があるしな」
キノコ鍋は美味しかったし、お腹も痛くならなかった。ラキルを信用してないワケじゃないけどね?
そして師匠が話をつけた馬車に揺られて、ナーラの街に戻って来た。
来た時と同じ宿に部屋を取って、僕とラキルはビオフ草を持ってギルドに向かった。たくさん採ったけど、これでいくらになるのかな?
「では、こちらが依頼の報酬で金貨一枚と銀貨八枚、こちらが買い取り分、金貨二枚と銀貨六枚です。こちらにサインを」
ラキルがサインをして、僕に金貨二枚と銀貨二枚をくれた。
「こんなに、貰っていいの?」
「ああ、ビオフ草はエルフの森にしかないからな、金になるんだ。タロのお陰で沢山採れたし、サンキューな!」
ジローのお陰だし、師匠も手伝ってくれたし……そうだ、師匠にお金を返さなきゃ。
宿に戻って……金貨二枚、小金貨と銀貨で合わせて金貨一枚分。師匠に渡そうとした。だけど師匠は
「あれはタロウにあげたんじゃ。タロウが稼いだ金は、タロウの金じゃよ。大事に使いなさい」
と言って、受け取って貰えなかった。
夜中から雨が降り出した。
朝、ギルドに行ったラキルが帰って来て「ダメだ。足止めだ」と言った。
今日、カシワ村まで行く馬車がないらしい。雨が降ると道が
「まぁいいじゃろ。急ぐ旅でもあるまい……ちょうどいい、タロウに回復薬の作り方を教えようかの」
師匠に言われ、食堂に行ってピッチャーに一杯、水を買って来た。ここでは、飲料水は有料だ。小銅貨一枚だった。コップも二つ借りて来た。
「何、簡単じゃ。このコップの水に、回復魔法をかけてみなさい」
水に、回復魔法? ちょっとイメージが掴めないけど……でもやってみる。魔力を流し込むイメージ……。
「こっちの、ただの水と飲み比べてみるんじゃ」
ごくん。……うん。ごくん。……うん?
「何となく……甘い、かな?」
「どれ……ふむ。もう少し魔力を流してみなさい」
言われた通りにもう一度やってから、飲み比べると……今度はハッキリ味が違う。美味しい!
「うむ。良いじゃろう。だがコレは、ただの回復水じゃ。疲れくらいは取れるがの」
回復薬は、この回復水で『ヒール草』という薬草を煎じたもの。煎じる時の注意点、薬草と水の分量などをノートに書き留めた。
「回復薬は、ギルドで一本、銅三枚で売っておる。買い取りは一本銅二枚じゃ。ギルドに売る場合はギルド指定の瓶を買わねばならん。一本小銅貨一枚じゃの」
つまり、回復薬をギルドに納品する場合の利益は……一本につき、銅貨一枚半だ。
薬草を取ってきて、回復水を作って、煎じて、瓶に詰めて……って作業の割には安く感じるな。
「確かに面倒な作業じゃが、回復師と回復薬は、冒険者の命綱じゃ。誰かがやらねばならん。……だから回復師は、冒険者から尊敬されておるんじゃ」
そうか……。
足元を見たぼったくりの医者じゃ、誰も尊敬なんてしないもんな。
よし、村に帰ったら、ギルドの救護室と回復薬づくりを、当面の僕の仕事にしよう。
頑張るぞ!
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