第13話 冒険者


「ええ!記憶喪失!?」

「はい」

「そうか……」

 休憩が終わり出発し、今はラキルが御者席に座っている。

 僕はゼムとユッカと談笑中。ちなみに師匠とジローはお昼寝中だ。

 ゼムとユッカは夫婦だって。二人とも若い頃からずっと冒険者をやって来て、ギルドランクはBマイナスだと言った。

 ギルドランクって言うのは冒険者の技量や経験の指標となっていて、ギルドが評価と管理をしている。

 一番下がEランク、冒険者なりたて。僕だ。Dランクもまだまだ経験不足、Cランクで一人前。ランクCとBには+《プラス》と-《マイナス》があって、B-は中堅処、という感じらしい。

 Aランクにまでなれる冒険者はそうそう居なくて、みんなから尊敬されている。ギルドマスターは皆、元Aランクの冒険者だそう。もちろんドーンさんも。

「ラキル!ラキルは何ランクなの?」

 御者席のラキルに聞く。

「俺はB+だ」

 ラキルは前を向いたまま答えたけど……たぶん得意気な顔をしてそう。

 ラキルはつい最近、プラスがついたんだ、とユッカが小声で教えてくれた。


「止めてくれ。……ユッカ、どう思う」

 ラキルが馬車を止めた。

「……ちょっと厄介だね。ヤウルフだけど、数が多い」

「群れか……。オルゾさん、馬に目隠しを」

「よし、分かった!頼むぞ!」

 ヤウルフ……また魔物?……数が多いって……大丈夫だろうか。ユッカとゼムが馬車を飛び降りる。ラキルも「よし、やるか!」と言って走って行った。僕は何をすれば!?師匠、起きて!

「ん、ヤウルフの群れ?……どれどれ」

 師匠はどっこいしょ、って感じで馬車を降りた。僕も付いて行く。

「ジローはここに居て」

「ウ」


 ───五十メートル程先で三人が話をし、ゼムが一人、さらに先に歩いて行く。と……遠くに何か見えた。

「師匠、ヤウルフってどんな魔物……?」

「うむ。肉は硬くてあまり旨くないの。毛皮は売れるが」

 ……そうじゃない。

 あ、見えた!四つ足の黒い魔物の集団が向かって来る!

 先頭の一匹がゼムに飛びかかった。ゼムはそれを軽く避けて、後から来る集団を大剣で凪ぎ払う。ゼムが避けた魔物を後ろのラキルが剣で突き刺し、素早く抜く。凪ぎ払われた魔物が立ち上がる前に、ユッカが止めを刺していく。ラキルが集団に突っ込んで行く。

「ガゥァ!」「ギャン!」

 次々と魔物が切り飛ばされて行く……。まるで映画を見ているようで現実感が薄い。

 と、倒れていた魔物がよろよろと立ち上がり、こちらを見た。……ん? ……!! こっちに向かって来る!?

「ひっ……」

「ほい」 ドサッ。

 何か、光が走ったと思ったら魔物が倒れた。

「師匠……?」

「今のは光の魔法じゃ。タロウ、攻撃魔法は危険じゃから、まだ真似するでないぞ」

「……はい」

 教えて!……と言う前に制されてしまった。

「終わったようじゃの」

 向こうを見ると、全ての魔物が倒れていた。

 師匠が倒した魔物に恐る恐る近づいて見ると、見た目は狼のようだった。黒に近いグレーの毛が光っている。腹に刺し傷があり血が出ている。眉間にも鋭い刃物で切られたように傷口が開いているが、こっちは傷口が焼かれたようになっている。これが、師匠の魔法の傷だろう。

 魔物が向かって来た時、背筋が凍った。僕は、戦えるようになるのか不安……。

「ほれタロウ、お主の仕事は回復じゃろう?」

 あっ。

「みんな大丈夫〜〜!?」

 僕は三人に走り寄った。


 ゼムが腕を咬まれたが、ユッカとラキルは無傷だった。ゼムに回復魔法をかける。

「……大丈夫?」

「ああ、サンキュー!」

 良かった。僕も参加できた気がして嬉しい。

 それからみんなで手分けしてヤウルフの皮を剥ぐ。僕もゼムに教わりながらやってみたけど……難しい。

「コツを掴むまでがな。何匹かやれば馴れてくるさ。冒険者をやるなら必須スキルだ」

 はあ、覚えなきゃいけない事が沢山だ!……でも不思議と、楽しみに思ってもいる。

 ヤウルフは全部で十五匹もいて、肉は全部持って行けないので比較的美味しいらしい部位だけを切り取り、魔石を取り出して、残りは捨てて行くようだ。

「いやはや、お疲れ様でした。大漁ですな!」

 オルゾさんは嬉しそう。この皮やなんかは、オルゾさんが買い取るって。

「さて、少し急ぎましょうか」

 僕達は再び馬車に乗り込んだ。


「あの、なんでユッカさんは遠くに居る魔物が何か分かるの?」

「ん?……アタシ達半獣人は、もともと目も鼻も耳もいいんだ。あとは何となく、だね」

「ほっほ、経験値じゃのぅ」

「みんな凄く強くて、びっくりした……」

「まぁ、俺達Bランクだし、あの程度なら」

「……ゼム、咬まれてたわね」

「あれは、回復師がいると思って油断したかな」

「……一匹、り損ねておったぞ」

「スミマセン!」

 ───それから、ゼムとユッカの昔の冒険の話を色々聞いた。駆け出しの頃の失敗や二人の出会い、死にそうになった時の事。地方ごとのオススメの料理や景色───。

 二人はこのシシリナ国内の街や村には大体行った事があって、そろそろ他の国を見てみたくてお金を貯めているそうだ。……冒険者って面白そう!

 僕もジローと一緒に、あちこち旅して回れたらな。……ジローも一緒に。

 そのジローは、さっきからずっと馬の横を機嫌良さそうに走っている。地面が土だから、疲れないのかな?ラキルが居るし、心配ないだろう。


 日が傾いて来た頃、街が見えて来た。

 カシワ村と違って、石造りの壁で囲まれている。

「ナーラの街じゃ」

 大きな門を入ると、道の両側は広場になっていて、馬車が何台も止まっていた。オルゾさんも空いているスペースに馬車を止め、馬を繋いでいる。駐車場みたいだ。

「タロウは初めてなんでしょ?今日はアタシ達がばんをするよ」

 番て、馬車の番の事だろうな。積み荷の見張りだ。

「ああ、ありがとう」

「ありがとうございます!」

「この子はどうするの?」

「バウ!」

 あ、犬は宿に泊まれないか……。だったら僕、ジローと一緒に……と思っていると「とりあえず宿で聞いてみるよ」と、ラキルが言ってくれた。

 僕達はユッカ、ゼム、オルゾさんと別れた。


 ラキルがよく利用すると言う宿で、ジローも泊めてくれるようだ。但し三人部屋で、四人分の料金。小金貨一枚。前払いで師匠が払ってくれた。

 部屋は……ただベッドが三つあるだけの、簡素な部屋だった。これが普通なのかな?

「やれやれ、腰が痛い。夕飯まで、ワシは少し休むわい」

「ワフゥ」

 ジローも疲れたみたいで、床に寝そべって動かない。

「俺はギルドに顔を出して来るよ。タロはどうする?」

 もちろん、街を見たい!


 ナーラの街はカシワ村よりも少し都会的な感じだ。お店なんかは石造りだし、道も少し広くて、馬に乗った人や馬車も通る。歩いている人の数も多い。樹木は見当たらないし花は花壇に植わっている。

 ギルドもやっぱり、大きくて立派だった。カシワ村の倍はありそう。

「人が多いね」

「ああ、ちょうど皆、帰って来る時間なんだよ」

 多くの冒険者は、朝ギルドで仕事を探して外に出て、夜暗くなる前に街に戻って来てギルドで報酬を受けとる、というのが日常だそうだ。日雇い労働者、って感じ。仕事が見つからなくても、魔物を倒せれば、その肉や皮、魔石が売れる。ギルドで買い取ってくれるそうだ。かなり自由気ままな生活。

 ───その時、ギルドの入り口から声がした。

「どけ!退いてくれ!怪我人だ!」

 半獣人の男の人が誰かを背負って駆け込んで来た。

「急いでくれ!頼む!」

 酷い!血だらけだ。思わず駆け寄って回復魔法をかける。背負われているのは半獣人の若い女の人……まだ女の子かも知れない。

「おお、あ、有難い!」

 背負ってる男の人が後ろで回復してる僕に気付いた。ギルドの人が走って来て、「とにかく救護所へ!」「ありがとな、坊主!」

 二人は救護室に入って行った。

 大丈夫かな……。僕の回復魔法、少しでも役立ってたらいいんだけど……。

 それにしても。反省しろ、僕。

『冒険者は自由気まま』だなんて、一瞬思ってしまった。楽しそう、とも。冒険者は危険と隣り合わせだ。リリルさんに『冒険者は自己責任』て、教わったじゃないか。僕は守られていただけで……ユッカやラキル達が強かったから……無事でいられた。少し気を引き締めなきゃ。

「いたいた、タロ!……どうした?」

 ギルドを出て歩きながら、今あった事を話した。

「おお、良いことしたな!……こっちも良い仕事があったぞ」

 ラキルが爽やかに、ニヤッと笑った。















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