第9話 子供。大人。責任。
「タロウの故郷はな、どうやら成長が早いようなんじゃ」
師匠はドーンさんに説明している。僕はまだ上手く飲み込めない。
「……あの子が十六……?僕と同じ年?」
「この坊主が、まだ十六だってのか!?」
「そうじゃ。……さて、患者が増える前に昼飯を済ましたいのう。ドーン、食堂から何か取ってくれんか」
師匠はしらっと言って銀貨を一枚、ドーンさんに渡した。
「……ああ、分かった……」
納得のいかない顔のままのドーンさんが出て行くと、師匠が言った。
「タロウ、見た通り、この国で十六歳はあの大きさじゃ」
「僕の見た感じだと、八歳くらいに見えます……」
「タロウの国の人間は、どれくらい生きるかの?」
「長生きする人で百歳くらい」
「やはりのう」
師匠の話では、ここでは『純粋人』は二百年前後、ドーンさんのような『半獣人』は百七十年前後、そして『エルフ』は三百年以上生きるらしい……長生きと言われるのは三百五十歳以上だそうだ。
「短命種の方が、成長が早いんじゃよ」
「そしたら……師匠は、何歳なんですか……?」
「ワシか?……そうじゃのう、二百七十から九十の間位かのう。三百にはなっておらんと思うんじゃが」
気が遠くなる話だな……!
ん?て事はラキルも実は……おじさん?
いや、僕基準で考えるのは止そう。ここでは───
「お待たせしました!A定食でーす!」
元気に入って来たのは、リリルさんだ。
「先生、お疲れ様です!タロウこんにちは!ジローちゃんは……!?」
「あ、今日は留守番で……」
「……そうなの……」
とたんにテンションが下がったリリルさん……。A定食のトレー二つをそっとベッドに置くと静かに部屋を出て行く……。ああ、なんか申し訳ない気がしてきた。後で散歩の時に連れて来よう!
食事をしていると次の患者が来た。
また子供……いや、僕より年上かもしれないが……三人。一人が青い顔をしていて、残りの二人に支えられている。
「どうした?」
「訓練中に木から落ちて……」
「どれ?……ああ、折れとるな。タロウ」
骨折しているのは足首のようだ。凄く腫れている。ベッドに座らせて、足首を両手で包むようにした。
……痛そう……早く治してあげたい。
でも、折れた骨をくっつけるって、どうもイメージ出来ない……。とにかく、治れ、治れ───と思いながらやってみる。
……何度か様子を見つつ念じていると、腫れは引いたようだ。そっと足を触ってみる。
「……どうかな?」
「うん……大丈夫みたい」
でもまだ顔色が良くないな……。ちょっとオデコに手を当てると、熱があるみたいだ。
「師匠、この子、熱がある」
「どれ……ふむ。食欲はあるかの?寒気は?喉の痛みは?」
回復師ってやっぱり、お医者さんなんだな。治療の方法が違うだけで。
「うむ。風邪じゃの。体調の悪い時に無理に訓練などしてはいかんぞ。帰って寝なさい」
「はい……ありがとうございました」
「ありがとうございました」
三人は帰って行った。
ふう。……風邪は治せないのかな?
「風邪は厄介なんじゃ。喉の痛みを取ったり、熱を下げたりは出来るがの、治すことは出来ん。休養が一番じゃよ」
……普通に一緒だった。
その後も、切り傷や打撲などを負った冒険者が来ては師匠が症状を見て僕が治した。
来るのが若い人ばかりだなと思ったら、ベテランで稼げる冒険者なら回復師を雇うし、普通の冒険者は回復薬を持ち歩くから、怪我をしたらその場で治すって。
ちなみにランクによって治療費が違くて、低ランクの内は無料。と教わった。
……ちょっと疲れてきた。
「タロウ、そろそろ疲れてきたかの?後はワシがやるから帰ってよいぞ」
え、顔に出ちゃったかな!?
「ま、まだ大丈夫です!」
「ほっほ、やる気があるのは良いが……まだ初日じゃ。ジローも待っておるじゃろう……それと」
師匠はギルドのカウンターに行って冒険者登録をして、それから夕飯を買って帰るように、残りは好きに遣いなさい、と小金貨を一枚くれた。
「お疲れさん」
「はい!お疲れさまでした!」
救護室を出ると、ギルドの中は昨日と同じように閑散としていた。
「あっタロウ、こっちよ」
カウンターの中のリリルさんに呼ばれて行くと「はい、初仕事お疲れ様!」と銅で出来たバッチをくれた。
国会議員が胸に着けているような、小さなバッチだ。
「登録料で銀貨一枚いただくわ。……はい、確かに。これでタロウは冒険者よ。頑張ってね!」
「……えっと……仕事が出来るんですね?」
「そうよ。タロウは回復師だから、冒険者からたくさんお声がかかると思うわ。でも、簡単に誘いに乗っちゃダメよ」
「?」
「外に出れば、どんな危険な目に会うか分からないんだから。ちゃんと自分の身を守れるようになってからよ」
そうか。外には魔物がいるんだもんな……。今日、治療に来た子供たちも、ちゃんと武器を持ってた。
「はい。師匠からも『村の外には出るな』と言われてます」
「そうね。大丈夫!村の中で出来る仕事もあるからね」
「はい!宜しくお願いします!……あ、これから帰って、ジロー連れて来ますね!」
「まあ本当!?待ってるわね!」
僕はさっそく胸にバッチを着けて、ギルドを出た。
帰り道に市場を通るので、師匠に頼まれた夕飯を買って行こう。
う、いい匂い!コレは昨日のチープドラゴンの串焼きだ。凄く美味しかったけど、続いたら飽きるよね。 だから今日は……揚げ物!
「スーアルの唐揚げ、銅三枚!」
見た感じは鳥の唐揚げだ。人気があるみたいだし、コレにしよう!
「えっと、三人分、持ち帰りで」
「はいよ!まいど!」
他にも色々見たいけど、ジローが待ってるし……ジローをリリルさんが待ってるし。冷蔵庫に野菜がまだあるから大丈夫だろう。
「ただいま、ジロー!」
「ワワン!」
「さあ、散歩に行こう!」
……そう言えば、ここって首輪とかリードがなくてもいいのかな?昨日も誰にも何も言われなかったし。ジローはちゃんとしてるからリードは要らないけど、迷子になると困るから首輪は欲しいな。
そう思いながらギルドまで来ると、
「ジローちゃ〜〜〜ん!!」
リリルさん、表で待ってたみたいだ。
「ワッフ!」
ジローも嬉しそうにしてるから、僕は一人でギルドに入った。
今まで気付かなかったけど、正面に時計がある。
ノートを出して数字を確かめると、上が十二、下が六。ああ良かった。時計の読み方は一緒だ。
壁にはあちこちに紙が張ってある。ここは役所みたいな所だから、お知らせとか?
近くに行って見て見ると、紙はみんな磁石で留められている。文字は読めないけど、全部に数字が書いてある……そうか。コレ、仕事の依頼だな。
「あら、早速お仕事を探してるの?」
「ワウ」
「あ、リリルさん。……ジロー連れて来ちゃって大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫!マスターも、人が少ない時はいいって言ってたでしょ?」
……言ってたかな……?
「これが仕事の依頼?」
「そうよ、やりたい仕事があればこの依頼書を持ってカウンターに来てね。私達がその冒険者に合っているかどうか一応、確認するの。若い冒険者は無理しがちだし」
「あ、冒険者が危険な目に会わないように?」
そうか。なら、子供でも安心───
「違うわよ。……ちゃんと依頼を達成してくれなければ、依頼主が困るからよ」
リリルさんは真面目な顔になって言った。
「いい?タロウ。仕事を受ける以上、『出来ませんでした』は通らないの。自分の力量を誤って、もし死んでも、自分の責任よ。何度も依頼を失敗すれば冒険者の資格は取り消されるわ。……子供でも大人でも、依頼を受けるところから全て、自己責任よ」
「……」
怪我をしても『もし死んでも』───
子供でも大人でも『全て自己責任』。
考えてみれば当たり前のことだけど、ハッキリと言われた事はなかった……。
「だからタロウ、無茶はしないでね。若いうちは、慎重過ぎるくらいでちょうどいいのよ」
リリルさんが優しく僕の肩をポン、ポンと叩いた。
僕は今、凄く大事な事を教えて貰ったんだ、と思った。
「……とは言ってもね、外に出ればたとえAランクだって、絶対に安全、なんて事はないからね……回復師はいつでも必要なの!」
「……回復が出来る人って、少ないんですか?」
「少しの回復なら、ある程度の人が出来るわよ。でも『回復師』を名乗れる人となると、こういう小さな村には少ないの」
え、僕、大丈夫かな……?
「……タロウは蘇生も出来るんでしょ!? 期待してるわよ!──ね~、ジローちゃん」
うわぁ……。頑張らないと。
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