第8話 色々な魔法

 お風呂に入って、ラキルに貰ったブカブカ服を洗濯する。

 僕にはブカブカだけど、ラキルは『もう小さいんだ』って、他にも数枚お下がりをくれた。……もちろん全部ブカブカだ。このお下がりはパジャマにしよう!ゆったりしててちょうどいい。

 下着と、ミーさんに貰ったハンケチも洗濯した。お風呂を出て部屋に帰る。

「……干す所がないな」

 ロープとかハンガーとか。


「ラキル〜、洗濯物を干したいんだけど」

「干す……? ああ、そうか」

 と言いながらラキルは何故か大きな袋をだして広げた。

「ここに入れて」

 ……? 洗った服を入れる。

 袋に右手を入れて左手で袋の口をしっかりつかむと───バフッと袋が膨らんだ。

「風魔法だ。こうやって袋を振りながら中身を回転するようにすると、早く乾くぞ」

「……乾燥機!やるやる!」

 右手を袋に入れて……左手で口を掴んで……魔力を集めて……風をイメージ!

 ブワアッ!! びたん! ボトッ。

 ───袋ごと飛んで行って、壁に当たって落ちた。

「あははははは!……袋の口をちゃんと持っておかないと!わははは!」

 すごすごと袋を拾いに行く。

 もう一度。……もう少し弱く……扇風機の風のイメージ。ブワッ!

「そうそう……本当にタロは飲み込みが早いな!」

 魔法……便利!!


 部屋に帰って乾いた服をたたみ、小さなタンスにしまう。

 今日はラキルの袋を借りたけど、自分の袋、買った方がいいかな?

 さて……

「寝る前に日記を書くぞ!」

 まず、優しい光……ポワン。

 よし……。いや、右手に出しちゃったらペンが持てない。コレ、移動出来ないかな? 空中とか机の上に……。

 手のひらを下にしてみる。が、光の玉は落ちることはない。ぽいっと投げてみると、手からは離れたが消えてしまった。

「……明日、師匠に聞こう」

 もう一度、今度は左手に光の玉をだし、左手をスタンドライト代わりに日記を書いた。



「ワッホ!」

「───おはよう、ジロー……重い」

 ジローの上半身が僕の上に乗って……

「……ジロー、また大きくなった?」

 もう間違いない。

 向こうに居た時と比べたら一回りは大きくなってる。……それに元気になった気もする。うん、それは嬉しい!


「タロウ、今日はワシとギルドに行くぞ……その前に……ジロー、お主デカくなっとらんか?……いや、そうでなくてな」

 師匠は僕が怪しまれない為に、危険に会わない為に、色々注意をしてくれた。村の外に出ないこと、怪しい人に付いて行かないこと、教えて貰った魔法以外は使わないこと。何か聞かれた時は、記憶喪失と外国から来た、で押し通すこと。


 昨日買ったカバンにノートとペン、財布を入れて肩から下げる。

「ジロー、今日はお留守番。帰って来たら散歩に行こうな」

「ワン!」

「ジローは本当に利口だな!」

「……まだデカくなるのかのう」

 ジローは雑種の中型犬だったんだけどな……。


 朝のギルドは昨日と違って、たくさんの人が溢れていた。文字通りギルドの外まで溢れていたのだ。

 ジロー置いて来て正解……。

「あっ、先生!先日は……」

「先生、いつもお世話になってます!」

「はい、はい」

 師匠と歩いていると、たくさんの人が挨拶する。師匠有名?とは思ったけど、ギルドに来たらほぼ全員に挨拶されてる。さらに、人混みの中でも師匠の前に道が出来る……。

「……師匠って凄いんだね」

「ああ、命を助けられた奴がたくさん居るからな」

 そっか。僕と一緒だ。

 ギルドの中も人で一杯だ。みんな、剣や槍なんかの武器を持ってて、鎧に身を固めた人もいる。女の人も居る。……みんな凄く冒険者っぽい……!

「じゃあな、タロ。俺は仕事探してくるから」

 え!?……あ、そうか。ラキルも冒険者なんだった。

「お主はこっちじゃ」

 師匠に連れられて入り口近くのドアから隣の部屋へ入る。その部屋にはベッドが六つ並んでいた。きっとここは……。

「救護室じゃよ。傷を負った冒険者どもが運ばれて来るところじゃ」

 やっぱりね。でも、病院みたいに医療器具なんかは何もない。ベッドと椅子があるだけだ。

「魔法は繰り返し練習するのが一番じゃからの。回復師を目指す者は、ここで実践を積むんじゃ」

 納得。練習の為にわざわざ怪我人をつくる訳にはいかないもんな。冒険者は怪我も多いだろうし、一石二鳥なわけだ。

「午前中はお客さんも来ないじゃろ。その間は勉強して貰おうかの」

 師匠は椅子を持って来て座ると、僕にもそうする様に言った。魔法の勉強かな?───師匠は懐から本を出した。

「コレが家にあったからちょうど良かったわい。……ラキルが小さい頃のものじゃ」

 渡された本は、表紙に可愛い絵が書いてある。中を見ると……絵本?

「幼児向けの、数と文字を学習する本じゃよ」

 あっ!それ必要だ!

 ここで生きて行くには、ここの文字の読み書きが出来ないと。さすが師匠!幼児向けなのもありがたい。

「まず数字から……」

 その時、ドアが開いてドーンさんが入って来た。

「先生、来てるなら言ってくれよ……おう、坊主」

「おはようございます!ドーンさん!」

「……ずいぶん元気になったな。何か思い出したか?」

「ドーン、焦らせるでない」

「ああ……、すまねぇな。ところでちょっと、治してくれ」

「ん?お主が怪我をするとは珍しいの……どこじゃ?」

 ドーンさんは後ろを向いて、ズボンを少し下ろした。毛深くて、どこに傷があるのか分からないけど……。

「どうしたんじゃ?」

「……。階段から落ちたんだ」

「……。タロウ、いい練習台が来たの」

「ケツの上の辺りを打ったんだ。大したことはないんだが」

「タロウ、昨日の光の魔法を思い出すんじゃよ。ただし、魔力は集めるのではなく、患部に流し込むんじゃ。手のひらから優しさを出す感じでやってみなさい」

「はい……」

 ドーンさんの腰の辺りに手をかざして、集中する。優しさを出す?……子供の頃、お母さんにやって貰った……痛いの痛いの、飛んでいけ〜。……違うかな。

「ふむ。もう良いぞ……ドーン、どうじゃ?」

 えっ?もう終わり?

 ドーンさんが腰とお尻の辺りをさすっている。

「おお、痛くなくなった。坊主、やるな」

「……出来た?」

「うむ。さすがは我が弟子。タロウ、今の魔力の量を覚えておきなさい」

「坊主、助かった。いや、ウチのモンに『階段から落ちた』とは、言いづらくてなあ……」

「ドーン、治療代じゃ。茶を持って来い……高い方じゃぞ」

「……口止め料込みな」

 えーっと、回復魔法、習得?


 それから暫く、僕は数字の読み書きを勉強した。数字が読めないと、買い物の時に困る。カバンからノートを出して、一から十までの数字を書き、その下にここの数字を書く。とりあえず丸暗記だ。……忘れたらこのノートを見ればいいし。

 ───師匠とドーンさんはお茶を飲みながら雑談中。と、ドアが開いた。

「お願いします、いてて……」

 腕を布きれで押さえて入って来たのは───子供だった。

「どれ、見せてみなさい」

 押さえていた手を退けると、腕に三本の長い傷。鋭い爪に引っかかれた様な……。

「フォンマウスかの?」

「そうです……」

 こんな小さな子が、どうしたんだろう。たぶん小学校二、三年生……八歳か九歳くらい。

「ほれタロウ、仕事じゃ。さっきと同じくらいの魔力で良いじゃろ」

 子供の腕を取って傷口に手をかざし、痛いの痛いの、飛んでいけ……と思いながら傷口を撫でる様に動かすと───傷が消えた。

「……ふぅ。ありがとうございました」

「坊主、ランクはEか?」

 黙って見ていたドーンさんが、口を開いた。

「はい……」

「そうか。で、倒したのか?」

「はい!」

「よくやったな!頑張れよ!」

 ドーンさんはニカッと笑うと大きな手で、子供の頭をわしゃわしゃっと撫でた。

「……はい!ありがとうございました!」

 その子はペコリと頭を下げて出て行った。

「……今の子って……まさか、冒険者なんですか?」

「ああ、Eランクは初心者だ」

「あんな小さな子が……」

「……タロウ、お主と同じくらいの年じゃと思うぞ」

「え?」「ん?」

 師匠の言葉に、僕とドーンさんはきょとん、とした。

「冒険者の登録は十六からじゃ。のう、ドーン」

「ああ、そうだが……?」

「タロウは十六じゃ、あの子もその位じゃろ」

「……ええ!?小さ!」「……ずいぶんデカいな」

 あれ?僕とドーンさんは顔を見合せた。



















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