第6話 レッツ・クッキング

 

 ラキルは野菜や果物を売っている露店で色々買い込んでは、リュックに入れた。アポーの実とレモーネの実も買ってくれた。次に大量のソーセージ。

 それから「やっぱコレだな!」と言って立ち止まったのは、ジュージューと肉の焼ける音と大量の煙、焦げるタレの匂いで道行く人達を惹き付けている、串焼きの店だった。これはまさしく、焼き肉の匂いだ!!

「ぐぅ〜……」思わずお腹が鳴ってしまう。

「カシワ名物、チープドラゴンだよ!食わずに死んだら後悔するよ!」

「ドラゴン!?」

「そう、この村の名物だ……四本ね!持ち帰りで」

「はいよ!」

 お店の人は、大きな串に刺さった肉の塊を串から外すと、ツルツルした紙に手早くくるんで、それを四つ置いた。……かなりの量だ。

「はい四本で銀一枚と銅六枚!」

 ラキルは銀貨一枚と小銀貨一枚、銅貨一枚を出した。

「まいどーー!」

 つまり銅貨五枚が小銀貨一枚の価値なんだ。ああ、メモしたい。

 ラキルは肉の包み四つをリュック入れて───

 !!?

「ちょっ……と待って、ラキル」

 何かおかしいと思ってたんだ。

 ラキルのリュック……そんなに大きくない。大量の野菜と果物、ソーセージがすでに入ってて……それだけでも容量オーバーなはずなのに。さらに包みが四つ……普通に入れたよな?

「そ、そのリュ……袋、どうなってるの……?」

 もしかして、また聞いちゃいけないヤツかも知れないけど……好奇心には勝てない!

「……フフフ、気づいたか……?ほら、見てみな」

 ラキルは袋の口を開けて中を見せてくれた。

 ───ん? 何だろう。小さなものがたくさん……まさか……ミニチュアになってる!?

 僕は袋に手を入れて、親指くらいの何かを手のひらに乗せ、そっと袋から出してみる。すると、袋から出た瞬間に手のひらにズシッと重みを感じた。それはテニスボールくらいの、アポーの実だった。───またそっと袋に入れてみる。僕の手の大きさは変わらないけど、手のひらに乗ったアポーの実は一瞬で小さくなり、ほぼ重さも感じない。


「な、何コレ……。スッゴく便利!」

「だろ?冒険者垂涎の一品だ!名前は……何だったかな……『全ての愛を詰め込んで!ミーバック』とか何とか」

 そのネーミングセンスは……。

「ミーズスが開発した魔法なんだが、人気過ぎて入手困難だぞ」

 やっぱり。

「じゃあソレ、高いよね……」

「そうだな、金貨五十枚でも欲しいヤツは居るだろうな」

 ラキルは凄く得意そうな顔。それくらい価値のあるものなんだろう。うーん、金貨五十枚って……どれくらい仕事したら買えるのかな。

「ラキルはどうやってそれ……」

「───俺はコレを手に入れる為に……」

 一転してラキルの表情が曇った。……なんか遠い目をしてる……。きっと、お金を稼ぐ為にすごく大変な思いをしたんだな。悪い事を聞いちゃったかな。

「ぼ、僕もミーバックを買えるように、頑張るよ!」

「……そうか……頑張れよ……!」

 ラキルは引きつった笑顔で言った。


「ただいま〜!」

「おお、お帰り……楽しめたかの」

「はい!……これ、残ったお金です」

 僕は財布を出してお爺さんに渡した。

「いや、これはお主に……ん?……こんなに残っとるのか。タロウは無駄遣いせず、偉いのう。残りは好きに使いなさい」

 お爺さんはチラッとラキルを見ながら言った。

「タロ、手伝ってくれ〜」

 ラキルはお爺さんと目を合わせずにキッチンへ……。

「タロ、買って来た肉、適当に皿に載せてくれるか?俺はスープ作るから」

「うん」

 キッチンは、原始的な感じだ。

 土とレンガで出来た台の上に幾つか穴が開いている。釜戸だ。電気もガスもないんだな……水道も。水は大きな水瓶に入っているようだ。井戸から汲んで来るのかな?大変だ……次から僕も手伝わないと。燃料は薪かな……と見ていたら、釜戸の下、燃料が入る部分には何か黒い石が入っている。石炭みたいに真っ黒じゃない。赤黒い水晶みたいな……。

 ラキルが水瓶から鍋に水を汲み入れて釜戸の上に置いた。そして石に向かって指を「パチン」と鳴らすと、石が赤くなり燃え始めた。

「……ラキル、魔法?」

「?」

「今の……。あ、お爺さんが、ラキルは魔法使えないって言ってたような……」

「ああ、それはじいちゃん基準だ……。コレくらいの魔法は俺だって出来るぞ?」

「そ、そうだよね!」

 ちょっとカッコいいな、今の魔法。あの石はなんだろう……。聞きたいけど、やっぱりおかしいと思われる気がする。

「ワン」

「あっ、ジローこっちに来ちゃダメだよ!」

 そうだ、喉が渇いたのかな?いつも散歩の後は水を飲んでたもんな。

「ラキル、使わない器ってある?ジローに水をあげたいんだけど……」

「その辺にあるのテキトーに使っていいぞ」

 少し大きめの、木の器に水瓶から水を汲む。水瓶の底には、やっぱり水晶のような石が入っていた。

「はいどうぞ」

 ジローの前に木の器を置くとジローは一気に飲み干し、満足そうにキッチンから出て行った。

 さて僕も仕事をしないと。

 タライに水を汲み、野菜を洗う。コレは……リーフレタスかな?少しかじってみる。うん、味の濃いレタスだ。すごく瑞々みずみずしい。それをちぎって大きな皿に敷き詰めてから肉の包みを広げる。少し冷めちゃったな。

「ねえ、肉は温め直すの?」

「いや、チープドラゴンの肉は冷めても旨いんだ!もちろん焼きたても旨いが」

 そっか。じゃあこの肉を切って……スライスにしよう。包丁が大きくて少し怖いけど。レタスの上に綺麗に並べる。包みに残ったタレはキレイに残さずかけて……。それから……この赤い実はトマトっぽいんだけど……。

「ラキル、コレは生で食べられる?」

「ああ、食える」

 とりあえず半分に切ってみると、断面はトマトよりは柿のような感じだった。真っ赤だけど。少し切ってかじる。ああ、甘くない柿のような、甘いトマトのような。果物だったのかな。コレ美味しい! 真ん中に盛ってみる。あとは、きゅうりとかパセリ的なものがあると見映えがアップするんだけど。まあとりあえず、いいか。

 ラキルを見ると色んな野菜を小さく切っているようだ。背が高いから、台が低くて大変そうだ。

「手伝うよ。どれ切ればいい?」

「ああ、じゃあ、コレ頼む」

 コレは……きゅうり!……ではないな。でもこの形と色は、瓜科の何かだろう。これも生で味をみる。あ、少し苦い……ゴーヤ? うん、そんなに苦くないゴーヤ。生でいけるな。少し残して……薄ーく切って……肉の皿の飾り付け。よし出来た!

 取り皿と、フォークとナイフもテーブルに運ぶ。あ、スプーンも要るな。

「ラキル、スープの器ここに置くよ」

「おお、サンキュー」

「パンはかごに入れて置けばいいんだよね」

「おう、タロ、気が利くな!……よし出来た!じいちゃん呼んでくれ」

 やった!お腹減った!


「ほう……!タロウが作ったのか。まるで街の高級店みたいじゃ。お主、やるのう!」

「僕は切って盛り付けただけだよ……」

「いや、助かったよタロ!スープ作ったらもう、全部キレイに片付いてるんだもんな!びっくりしたぜ!」

 そんなに褒めて貰える事はしてないんだけど……料理は好きだし。

 僕はジロー用のスープにパンをちぎって入れて、水で少し薄めた。

「さあ、食おうぜ!」

「いただきます!……ジローもどうぞ」

「ワン!」

「うむ、肉が薄く切れていて食べやすいのう!」

 ドラゴンの肉……どんな味だろう?

 まずは肉だけで……!!これは!

「うん!これ旨い!凄く!」

「だろ?……もぐ……この冷めて味が染みたのがまた……もぐもぐ……こうパンに載せても……うぐ」

「まったく……ゆっくり食わんか」

「ゴクゴク……はあ。だけどじいちゃん、外では早飯が基本なんだよ!」

「ここは家じゃ」

 お爺さんとラキルは仲がいいなぁ。

 ……こうやって食べるご飯て、本当に美味しい。なんか、こういうの忘れてた。

「ワフゥ……」

「何?ジロー。あ、肉食べたい?」

「……タロ、どうした?」

「……なぜ泣いておるんじゃ」

 え?

 あれ、僕泣いてた……。

「あはは、なんでだろう?あれ?」


 嬉しいのに、楽しいのに、何故か涙が止まらなかった。



















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