第5話 買い物
「ここの通りに、大体の店が集まってるんだ」
ギルドを挟んで、市場の反対側。
文字は読めないけど、看板に絵が書いてあって、何となく何屋か分かる。まあ、全く分からないのもあるけど。
ベッドの絵はホテルだろう。剣と盾。本当に武器屋があるんだな……。トンカチの絵?店から金属音がしてるから、金属加工……鍛冶屋か。パンの絵、パン屋。星の絵……なんだろう。魔法関連?
「ラキル、僕カバンを買いたいんだけど……」
「お。じゃ、ここだな」
袋っぽい絵……。袋屋さん?
「ジロー、ここで待っててね」
「ワフ!」
ジローを店先に置いてドアを開けると、そこには大小様々な袋、カバンがあった。
「俺は背負い袋を使ってるけど、他にも色々あるぞ」
ラキルが背負ってる袋……リュック型の袋だ。冒険者っぽい!うーん、でも……僕はノートとペンを必要な時すぐに出したいから、いちいち背中から下ろすのは面倒だな。やっぱり、一番馴染みのある、ショルダーバックにしよう。
「こういう、肩から掛けるやつがいいんだけど……」
「ああ、使い易いよな。いいんじゃないか?」
「はいはい、肩掛けですね。大きさはどれくらいで?」
お店の人が幾つか出して来てくれた。
布と革があるけど、やっぱり革が高いのかなと思って値段を聞いてみると、革の種類、布の種類で違うそうだ。
「オススメはこちら。ブルゴーンの革で、強い、軽い、火と水に強い!お値段もお手頃──金貨一枚と銀貨四枚。」
うーん。貰ったお金の半分くらいか。これから洋服も買うんだし……。
「スミマセン、もう少し安いので」
「そうですか……。じゃあこちら。耐久性では革に劣りますが、強化繊維でまあまあ丈夫、まあまあ軽い。内ポケット付き!──銀貨六枚半です」
……高いのか安いのか、分からない。でも大きさもちょうど良いし、シンプルで良いな。
「タロ、これがいいのか?──オヤジ、まけてやって!コイツ新米冒険者なんだ」
「うーん…。じゃ、銀貨六枚」
「もう一声」
「ラキルさんにはかなわないなぁ。これからご贔屓にしてくれるなら……五枚半」
「うん、いいんじゃないか?」
ラキルがそう言うなら。『半』って言うのは、小さい銀貨の事かな、たぶん。銀貨五枚と、小銀貨一枚を出す。
「はい、確かに。また宜しくお願いしますね!」
合ってたようだ。つまり小銀貨二枚で銀貨一枚と同じ価値。
早速カバンを斜めがけして、財布?の巾着袋を入れた。初めてのお買い物、成功!
店を出ると、ジローの周りに女の人や子供達が群がっていた。やっぱり珍しいみたいだ。ジローはいい子だから、子供にワシャワシャされてもジッとしてる。
「ワン!」
『遅い!』と言われた気がする。
「ごめん、ジロー。行こうか」
「ほら、ここだ」
シャツの絵。洋服屋!
「タロ、好きに見て来いよ。ここでジローと遊んでるから」
ジローに気を使ってくれたんだな、ラキル。よし、一人で買い物に挑戦だ!
「いらっしゃい……あらあら!」
店員さんの男の人が、僕を見て呆れた声を出した。うん……ブカブカだからね。早速戦意喪失……。
「あなた、良くウチの店に来たわ!私がちゃんとした服を選んであげるわ!ああ、もったいない!素材はいいのに!」
あ、ちょっと苦手なタイプの人……。
「あ、あの!そんなにお金、ないので……。金貨一枚くらいで、シャツとズボンと、下着を……」
「オッケー、このミーさんに任せなさい!」
ミーさんは……僕の不安をよそに、アレコレと服を僕にあてがっては一人言を言っている。
「そうね、サイズはコレ……だけど成長期だから……少し上にしときましょう」「やっぱり黒髪には黒のシャツ……いや、白も捨てがたい……!」「ああ、この銀糸の刺繍は絶対なんだけど……お値段が……」
凄いスピードで動き回るミーさん……。数分後。
「うん、こんな感じ。はいコレ、ソコで着替えて!」
服を持たされ、店の奥にカーテンで仕切られた一角に放り込まれる。
「あ、下着はぴったり派?ゆったり派?」
「え……と、ぴったりで」
「オッケーよ!着替えたら出て来てね!」
どんなのを選んでくれたんだろう?と思ったら、意外とシンプルだった。
シャツは白、Vネックで七分袖。少しゆとりもあって動きやすい。生地は厚い綿のようで、肌ざわりもいい。
ズボンは黒。ウエストはゴムの、細身の長ズボン。これは綿……のようだけど、凄く伸縮性があって膝を曲げても足を上げ下げしても、全く違和感がどこにもない。ぴったりだ。これ、凄くいいけど、こんな高性能な服、高いんじゃないかな……?
「ど〜お〜?」
「あ、はい!」
カーテンを開ける。
「……まぁぁあ!見違えたわ!素晴らしいわ!……ちょっと待ってね」
ミーさんは、僕の方に手の平を向けてバンザイすると、すーっと両手を下に下ろして行った。すると、なんとソコに……僕が映っていた。僕とミーさんの間に、鏡が出現したのだ!
「魔法……?」
「そうよ〜、鏡を買うと高いから……自分で編みだしちゃった!名付けて……『君の美しさは誰のもの?ミーミラー!』魔法よ」
……魔法って、自分で編みだせるんだ……。
「どう?気に入って頂けたかしら?サイズもバッチリでしょ?」
魔法の名前のセンスはともかく、服のセンスはいい。うん。凄く気に入った。
「はい、気に入りました!動き易いし。でも、値段は……?」
「下着二枚入れて、ぴったり金貨一枚!あとお近づきのしるしに、靴下とハンケチもサービスするわ!」
ほっ、良かった!正直なところ、コレも高いのか安いのか分からないけど、気に入ったからいいや!
ラキルに借りた服と、下着と靴下をカバンにしまって、一人でお買い物も成功!
ちなみにミーさんが選んでくれた下着はボクサータイプの黒と白で、サービス?の靴下はグレーと白の二足だった。ハンケチは……ただの布きれだったけど。
ミーさんが「また来てね?」とドアを開けてくれた。
「あらぁ!ラキルじゃないの〜!もう、何で入って来てくれないのよ〜!?」
「よ、よお、ミーズス」
「ミーって呼んで……きゃあ!何?この素敵な生き物!いやぁ〜愛らしい〜〜!!」
「ワウ!?」
男の人にスリスリされるジロー……。迷惑そうだ……。
「じゃ、またな、ミーズス!」
「ミーさん、ありがとうございました!」
僕達は急いで立ち去った。
「タロ、すげぇいい感じだな!カバンとも合ってるし」
「あ、全部ミーさんが選んでくれて」
「ああ、やっぱりな……。アイツ、服のセンスは良いんだけど……なぁ」
ラキル、外で待ってたのはもしかして、ミーさんが苦手だから……。ま、いいか。
「あと買いたいモノ、あるか?金は?まだあるか?」
「あ、お金、まだあるよ。はい」
「ああ、あるならいいんだ。それは好きに使えよ。で?あと何、見たい?」
見たいもの……うん、市場!
「さ〜て、なに食うか!タロ、好き嫌いあるのか?食いたいモンがあったら言えよ!」
「うん!好き嫌いはないよ!……どれも見た事ないから、ラキル、選んでよ」
「そうなのか?……そうだな、地方で食い物って違うもんな。遠い国なら全然、違うのかな」
あ、つい気がゆるんで……でも『遠い国』である程度、ごまかせそうだな。
「新鮮なジュース!いかがですか〜」
そう言えば喉が渇いた。
「ラキル、ジュース買ってもいい?」
「はい、いらっしゃいませ!どれになさいますか?」
赤、オレンジ、黄色、緑、紫……名前が書いてあるけど、読めないし。
「え〜と……オススメは?」
「そうですね〜、アポーは今が旬です。甘酸っぱくて美味しいですよ!スッキリした酸味がお好みならレモーネかしら」
「じゃ、アポー下さい」
「俺はレモーネ」
「はい、銅二枚です!ありがとうございます!コップの返却はこの箱へお願いしま〜す」
あ、コップは返すんだ。銅製だもんな。エコだね!
アポーは赤いジュース。どれどれ……?あ、美味しい!りんごジュースを薄くして酸味を足した感じ。
ラキルのレモーネも気になるな……。
「……飲むか?」
「いいの!?」
レモーネは薄い黄色で、レモンの色。あ、やっぱり酸っぱい!でも、微炭酸で喉越しスッキリだ。
「ワン!ワウ!」
「あ、ゴメン、ジロー。はい」
僕は手のひらに少しづつジュースを垂らして、ジローにあげた。
「美味しい?」
「ワフ!」
ミーさんに貰った布きれ……ハンケチが、早速役立った。
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