第4話 初めてのギルド


 朝早くはそんなに人を見なかったけれど、昼間のカシワ村には沢山の人が居た。

 ドーンさんの様に、獣の耳がある人も居るし、尻尾がある人もいる……。

 でも大体は、普通の人だ。僕が目立っている訳じゃなくて、少し安心した。


「ワン!」

 なんかいい匂いがしてきた!

「ここが市場だ」

 そこには幾つもの屋台のような店が並んでいた。活気があって、まるで縁日みたいだ!こういうのってワクワクしてしまう。

「ほらほら、チッタの串焼き!美味いよ!」

「ウチの野菜は新鮮だよ〜見てって〜」

「スーアルの唐揚げどうだい!?銅二枚!」

 見た事のない、聞いた事のないものだらけだ。ゆっくり見たいけど……ラキルに置いて行かれないように、今は我慢だ。ジローも鼻をひくひくさせてるがちゃんと付いてくる。

「旨そうだろ?帰りにここで昼飯を買って帰るからな」

「うん!……ジロー、我慢しような」

「ワゥ」


 市場の人混みを過ぎると、大きな石造りの建物があった。他の家や建物は木造が多いし平屋か二階建てなのに、この石造りの建物は三、四階までありそうだ。何か重要な建物っぽい。

「コレがカシワ村のギルド。タロ、金貨貰っただろ?両替していくか」

 ギルドって……あれ?警察みたいなモノだと思ったんだけど……。

「ねえラキル、あの……ギルドって、何する所?」

「え?……タロ、ギルド知らないのか?」

 しまった、まずかったかな……。でもコレは聞いておかなくちゃいけない様な気がする。いや、もう聞いちゃったし。

「あ、うん……。僕の国には、なかったかな……?」

「う〜ん……。そっか。いいか、ギルドは大事だぞ……大概、どの村や街にもあって、色々な事を仕切ってる。まず第一が冒険者の管理だ。俺達冒険者は、ここで仕事を探して、受けて、金を貰う」

 ハローワーク?

「冒険者登録とランクの管理、依頼の受付けと───」

 登録制?……人材派遣みたいなものか。

「何か問題が起こればギルドが解決する」

 やっぱり警察……裁判所も兼ねてる?

「税金を集めるのもギルドだ」

 ああ、何となく分かってきた。

「役所だ」

「……ヤクショ?……ああ、タロの国ではそう言うのか」

 たぶん……。

「ギルドマスターは、偉いんだね?」

「当たり前だ。そうそうなれるモンじゃない。ドーンは凄腕だぞ」

 なるほど〜。

 しかし、何も知らないのを隠しつつ色々聞くのは難しいな……。とりあえず今回はセーフ?


 ギルドの大きなドアは開け放れていた。

 中は広い空間にベンチが幾つか置いてあって、奥に長いカウンターがある。やっぱり役所か、銀行の窓口みたいだ。

 ラキルが、カウンターに居た女の人に向かって行ったので慌てて追いかける。あ、ジロー付いて来ちゃったけど、大丈夫かな。


「よお!」

「あらラキル。今日は遅いのね?」

「いや、今日は仕事は休みだ……コイツはタロ……タロウだ」

「あら……黒目黒髪……もしかして昨日の事件の?」

 う、僕の事は事件なんだ……。

「そう。今日からじいちゃんの弟子なんだ。宜しくな!」

「まあ!回復師なのね!ぜひ登録して欲しいわ!あ、私はリリルよ。宜しく、タロウ……って……きゃ〜〜、何、その子!?」

 リリルさんがジローを見て悲鳴を上げた。やっぱりまずかった!?

「ゴメンなさ……」

「カワイイ〜〜〜!さ、触ってもいいかしら!?」

 リリルさんは言いながらカウンターから出て来た。

「うわあ!綺麗な毛並み!お名前は!?」

「ワフ!」

「ジローです……」

 ジローは大人しく座って、なでなでされている。尻尾をパタパタさせて。

「ジローちゃんね?大きなワンちゃんね〜、それに、こんなに真っ白なワンちゃん、初めて見たわ!」

「だよな〜、珍しいよな」

「そうなの?」

「ああ、この国の犬はみんな茶色いな。黒っぽいの、白っぽいのは居るけど、ジローみたいに真っ白いのは俺も初めて見た」

 そうなんだ。

 それにしても、ジロー、やっぱり大きくなってるよな……。若干、毛も長くなってる様な……。


「騒がしいと思ったら、お前らか」

 カウンター脇の階段から、ドーンさんが降りて来た。

「あ、マスター」

 リリルさんが、シュバッとカウンター内に戻った。……カウンターをさっと飛び越えて。

「……リリル」

「はい、何でしょう。マスター」

「……犬は入れるな」

「あっ、ごめ……」

「いいじゃないですか。大人しいし可愛いしふわふわだし」

「……」

「あの、ごめんなさい……」

「坊主。今はいいが、人が一杯の時は絶対にダメだぞ」

「はい。すみません……」

「……ケチ」

「リリル。何か言ったか」

「いいえ?……ラキル、何のご用だったかしら」

「お、おう……」


 僕はお爺さんから貰った金貨を三枚出した。

「両替ね。でも全部両替すると重いわよ?……二枚でいいんじゃないかしら……また、来ればいいんだし」

 リリルさんはジローを見て微笑んだ。───また、ジローを連れて来い、って事ですね。

 金貨二枚は、小さな金貨二枚と、大きな銀貨八枚、小さな銀貨三枚、大きな銅貨四枚、小さな銅貨二枚、になった。

「こんな感じでいいわね」

 えーっと、この国の貨幣はつまり、金、銀、銅、それぞれ大と小がある、でいいのかな?

「あ、はい。ありがとうございます」

 ……怪しまれないように、細かい計算は後にしよう。ノートとペンを持ってくれば良かったな。そうだ。ノートを入れるカバンが欲しい。買えるかな?


「マスター、タロは今日からじいちゃんの弟子だから。宜しく!」

「……そうなるだろうと思ったよ。ま、頑張れよ、坊主」

 頑張れって言ってくれた……。

 ドーンさん、僕が村の一員になる事を認めてくれたのかな? 嬉しいな!

「はい!宜しくお願いします!」

「この村で問題だけは起こすなよ」

 やっぱり睨まれた……。

 しょうがないか。信用される様に頑張ろう。

 そうだ。僕も働いてお金を稼がなきゃいけない。

「あの、僕でも冒険者登録って出来ますか?」

「まあ!ぜひお願いします!……まずは仮登録になります。一度仕事を受けて頂いて、問題がなければそのまま登録となります。その際、登録料が銀貨一枚かかります。ではこちらの書類に……」

 リリルさんはテキパキと話を進めてくれたが───しまった。僕、字が書けないんだった……。

 チラッとラキルを見る。

「ああ、俺が代わりに書くよ」

 あ、代筆でもいいのかな?

「あら、ごめんなさいね。じゃ、ラキル、お願いね」

「……坊主、先生の所で世話になるんだろ?冒険者もやるのか?」

 ドーンさんに聞かれた。何かまずいのかな……。

「えっと、あの……ちゃんと仕事して、お金を稼がないと……。助けて貰った上に迷惑をかけるわけには……ジローのエサ代も……働かざる者、食うべからず、って言うし……」

 ドーンさんに見られていると緊張して、しどろもどろになってしまう。

「まぁ!まだ若いのに、偉いわ!」

「……そうか」

 ドーンさんはそう言って階段を上がって行ってしまった。

「もう……。ごめんなさいね。ウチのマスター、顔が怖い上に無愛想で。気にしないで!───出来た?どれどれ」

 リリルさん、優しいな。犬好きだし。

「───ラキル、これ間違ってない?……十六才ってなってるわよ」

「タロ、あってるんだろ?」

「はい」

「……確かに十六才から登録は出来るんだけど……本当に十六才?」

「……僕、何かおかしいですか?」

「え、ええ……。大きいし、しっかりし過ぎだし……」

 そうなの?僕はどちらかと言えば身長は小さい方だと思ってたけど……。夏休み中に伸びたのかな?……いや、もしかしたらジローが大きくなってる事と関係があるのかも……。

「───種族、純粋人、特徴、黒目、黒髪……特性、不明、特技、回復、蘇生……蘇生!?」

「ああ、俺がこの目で見たからな!マスターも見たぞ」

「まあ!本当に!?……年なんてどうでもいいわ!タロウ、期待してるわね!」

 え、いや……いいのかな……?

 でも、なんかもう「出来ません」て言える雰囲気じゃないんだけど……。


「ジローちゃん、また来てね!」

「ワン!」

 名残惜しそうなリリルさんにお礼を言って、ギルドを後にした。































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る